「新日本建設に関する詔書」(いわゆる人問宣言)全文
　　　　　　　　　　　　　　　昭和二十一年一月一日

「慈（ここ）二新年ヲ迎フ。顧（かえり）ミレバ明治天皇明治ノ初（はじめ）国是（こくぜ）トシテ五箇条ノ御誓文ヲ下シ給ヘリ。曰（いわ）ク、

一、広ク会議ヲ興（おこ）シ万機公論二決スヘシ

一、上下（しょうか）心ヲ一（いつ）ニシテ盛（さかん）二経綸（けいりん）ヲ行フヘシ

一、官武一途（いっと）庶民二至ル迄各其（その）志ヲ遂ケ人心ヲシテ倦（う）マサラシメソコトラ要ス

一、旧来ノ陋習（ろうしゅう）ヲ破リ天地ノ公道二基（もとづ）クヘシ

一、智識ヲ世界二求メ大（おおい）二皇基ヲ振起スヘシ

　叡旨（えいし）公明正大、又何ヲカ加ヘン。朕（ちん）ハ茲（ここ）二誓（ちかい）ヲ新ニシテ国運ヲ開カント欲ス。須（すべか）ラク比ノ御趣旨二則（のっと）リ、旧来ノ陋習（ろうしゅう）ヲ去リ、民意ヲ暢達(のびのび育てること)シ、官民挙ゲテ平和主義二徹シ、教養豊カニ文化ヲ築キ、以テ民生ノ向上ヲ図リ、新日本ヲ建設スベシ。

　大小都市ノ蒙（こうむ）リタル戦禍、罹災者（りさいしゃ）ノ艱苦（かんく）、産業ノ停頓、食糧ノ不足、失業者増加ノ趨勢（すいせい）等ハ、真二心ヲ痛マシムルモノアリ。然（しか）リド雖（いえど）モ、我国民ガ現在ノ試煉二直面シ、且徹頭徹尾文明ヲ平和ニ求ムルノ決意固ク、克（よ）ク其ノ結束ヲ全（まっと）ウセバ、独リ我国ノミナラズ全人類ノ為二、輝カジキ前途ノ展開セラルルコトヲ擬ハズ。

夫（そ）レ家ヲ変スル心ト国ヲ受スル心トハ我国二於テ特二熱烈ナルヲ見ル。今ヤ実二此ノ心ヲ拡充シ、

人類愛ノ完成二向ヒ、献身的努力ヲ効（いた）スベキノ秋（とき）ナリ。

　惟（おも）フニ長キニ亘（わた）レル戦争ノ敗北二終リタル結果、我国民ハ動（やや）モスレバ焦躁（しょうそう）二流レ、失意ノ淵二沈淪（ちんりん）セントスルノ傾キアリ。詭激(きげき：言行が度を越えて激しいこと)ノ風漸（ようや）ク長ジテ道義ノ念頗（すこぶ）ル衰ヘ、為（ため）二思想混乱ノ兆（きざし）アルハ洵（まこと）二深憂二堪ヘズ。
　然レドモ朕ハ爾等（なんじら）国民ト共二在リ、常二利害ヲ同ジウシ休戚(きゅうしょく：喜びと悲しみ)ヲ分タント欲ス。朕ト爾等国民トノ間ノ紐帯（ちゅうたい）ハ、終始相互ノ信頼ト敬愛トニ依リテ結バレ、単ナル神話ト伝説トニ依リテ生ゼルモノニ非（あら）ズ。天皇ヲ以テ現御神（あきつみかみ）トシ、且（かつ）日本国民ヲ以テ他ノ民族二優越セル民族ニシテ、延（ひい）テ世界ヲ支配スベキ運命ヲ有ストノ架空ナル観念二基クモノニモ非ズ。
　朕ノ政府ハ国民ノ試煉ト苦難トヲ緩和センガ為、アラユル施策ト経営トニ万全ノ方途ヲ講スベシ。
同時二股ハ我国民ガ時艱(じかん：当面する難問題)二蹶起（けっき）シ、当面ノ困苦克服ノ為二、又産業及（および）文運振興ノ為二勇往(ゆうおう：ためらわず前進すること)センコトヲ希念ス。我国民ガ其ノ公民生活二於テ団結シ、相倚（よ）リ相扶（たす）ケ、寛容相許スノ気風ヲ作興(さっこう：ふるいおこすこと)スルニ於テハ、能（よ）ク我至高ノ伝統二恥チザル真価ヲ発揮スルニ至ラン。斯（かく）ノ如キハ、実二我国民ガ、人類ノ福祉ト向上トノ為、絶大ナル貢献ヲ為（な）ス所以（ゆえん）ナルヲ疑ハザルナリ。
　一年ノ計ハ年頭二在リ。朕ハ朕ノ信頼スル国民ガ朕ト其ノ心ヲ一（いつ）ニシテ、自ラ奮ヒ、自ラ励マシ、以（もっ）テ此ノ大業（たいぎょう）ヲ成就センコトヲ庶幾（こいねご）フ」

(振りがな、および注は原文になし)