VEIとは、火山爆発指数(Volucanic Explosivity Index)です。
火山の爆発の規模を示す区分で、その時々に噴火する大きさです。
巨大な火山でも大きな爆破のときは、区分(ランク)が上がり、小さな噴火のときは下がります。
基準は噴出量の量の大小で、VEI8が最大です。
VEI8 発生頻度は全世界で10000年に一度以下、噴出物は1000km3以上
VEI7 発生頻度は全世界で1000年に一度以下、噴出物は100km3以上
とされます。
火山学者の早川由紀夫教授のブログによると、2014年の日本の交通事故死者数は、4113人(2015年4117人)で、火山噴火による死者の予測数は1655人だそうです。
この予測は、あまりに多すぎて、わずかに考えると、ありえない数字におもえます。
実際では、2014年に、御嶽山の水蒸気爆発で54人の方が亡くなられるという痛ましい災害がありました。これは、1991年の雲仙普賢岳の火砕流による犠牲者43人を上回る戦後最悪の火山災害でした。
また、20世紀に起きた日本の火山災害による死者数は、7火山の噴火による合計425人(行方不明含む)とされます。
早川氏は、一年で、一世紀の犠牲の合計の三倍を予測したことになりますので、まったく意味がなく、完全に誤った。としか思えません。
しかし、この予測の根拠はちゃんとあり、私たち日本人が歴史上、感じたことも、考えたこともない、恐るべき日本の火山リスクを教えてくれるのです。
火山災害の中には、全世界で数百年に一度、地域の社会・文明を崩壊させるような大規模噴火が発生します。
日本には世界の火山の一割がありますので、発生頻度でいえば、数千年に一度、このような噴火が起きます。
これはカルデラ破局噴火と呼ばれ、大量の火砕流を周辺のすべての方向に吐き出して、到達範囲を焼き払い、高温の噴出物で焼いて地下に埋め、その場にいるすべての動植物を一掃します。
そして大量に吐き出された火山灰が時に数百キロの彼方にまで、数十センチの厚みに降り積もります。
火山灰の重量は雪のほぼ十倍ですから、仮に20センチの降灰があれば、二メートルの雪がふったことになり、木造の建築物は、ほぼすべて倒壊するでしょう。
また、雨がふったあと、火山灰は泥流となって洪水、土石流を数年にわたって発生させ、河川が土砂を運んでつくってきた沖積平野は泥に埋まって使えなくなってしまいます。
平野の農地や住宅地から、人間は追い出されてしまうのです。
世界でもっとも最近の破局噴火は1815年のインドネシアのタンボラ火山(M7.1)でしたが、正確な犠牲者数はわかりません。
しかし大気中に粉塵がまいあがって翌年の1816年は世界的に夏の気温が上がらず、大凶作の年となりました。
日本で最新のカルデラ噴火は、約7000年前の九州・屋久島近くの海底火山による「アカホヤ噴火」です。
文字のない時代の噴火で、しかも九州南部の縄文文化がこの噴火で消滅してしまったので、民族的伝承も残らず、忘れられてしまいました。
しかしこのとき、山陽、大阪、紀伊半島、四国全域、九州のほぼ全域は、20センチ以上の火山灰でおおわれたのです。
実際に日本では、過去12万年に、このような大規模噴火は18回起きているとされています。
また、10世紀には中朝国境の白頭山が噴火(M7.4)して、日本にも北海道道南地方や青森に5センチ程度の火山灰を降らせています。
人口が7000年前より、比較にならない現代・未来においても、破局噴火はありふれた自然災害として発生します。
ただ、日本では数千年に一度で、人間という生物の実感として無視できるから危機感を持たずにすみました。
アカホヤ噴火が現代に起きたとすると、火砕流による直接死者見積りは30万人だそうです。
また、過去10万年で最大の噴火であった87000年前の阿蘇噴火が再現すれば、死者見積りは1100万人になるそうです。
このとき、火砕流は半径140キロにおよび、その範囲をすべて焼き尽くしました。・・・九州全域、山口県、四国の一部の人口総数が、1100万人です。つまりこれは即死の被害者数です。
しかも、上記は火山灰による遠距離での損害を想定していませんので、二次災害による犠牲は膨大になることでしょう。
このときの阿蘇の火山灰は、本州全域と九州・四国で20センチ以上積もりました。
これはあとから発掘された計測結果で、圧縮されて残った地層の厚みですから、噴火直後はもっと厚かったことでしょう。
火山灰の地層は、北海道でも全域で15〜数センチありますので、北海道もやはり甚大な被害をうけたことでしょう。
こういった各火山の万年単位の直接リスクを、計算して、年平均にした場合の予測数が、年間1655人です。
1655人を一万年に拡大すれば、死者は1655万人になります。そういうことなのです。
でも、実際には、これは即死のみで二次災害を一切含めない、かなり控えめな犠牲者数でしょう。
破局噴火が現代でおきれば、農作物の世界的凶作による飢餓による食料の不足がおきます。
被災地ではあらゆる交通インフラが使えなくなり、流通・貿易・交流の崩壊による社会の機能停止、原発の暴走の頻発が、「必然的」に予想されます。
阿蘇の巨大噴火の再現という、最悪のケースを現代で考えれば、日本の人口が半減してもおかしくないのです。
参考 「火山と原発」 岩波書店
対策はありません。
あまりに被害が大きすぎて、現在の行政、政治、災害対策はまったく機能しないし、対処する方法もないからです。被害を「くらった」政府にできることは、ありません。
ですから、できることは、個人でやらねばなりません。いかなることがあっても、人間は座して死ぬわけにいかないのです。
火砕流到達範囲に住んでいれば、噴火前に逃げねばなりません。火砕流の届かない安全な標高の山に登る、あるいは安全な海や空へと、逃げるのです。
火山灰の大量到達があるとなれば、自宅をあきらめるか、屋根の灰落としを、家がつぶれる前に実行しなければなりません。母屋をあきらめ、小高いところの道具小屋の灰落としに集中するのもいいでしょう。
そのうえで、その後、数年にわたって、繰り返し来襲する洪水、土石流から自宅が無事であるか、無事であるなら食料が備蓄されているか、自給できるか、水やエネルギーを確保できるか、社会の混乱による暴力的脅威や、原発からの汚染物質降下から安全でいられるか。
すべてを考えて、家族が生き残れるよう手を打たねばなりません。
被害のない地域は、もちろん被災地を救援して、一人でも多くの人を救助しなければなりません。
世界的に見れば、全地球的に気象に影響をあたえる、大規模噴火は数百年に一度「どうしても」発生します。
千年を軸に見れば、数回おきるのです。おきれば必ず世界的凶作になります。経済恐慌も起きる可能性が高いでしょう。過去の破局噴火でも、世界各地で強大な政府が崩壊してきました。
同様に日本でも、千年を考えれば10パーセント程度の確率で発生して、大被害をもたらします。
知らないということは・・ある意味、幸福でした。
2016/01/21 T.Sakurai