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人間に結びつく生命の起源
(嫌気性細胞と、ミトコンドリア)

Anaerobic cell and mitochondria



 あらゆる生命には、ひとつの原則があります。それは「存在」し続けることです。

 生命は途切れてはなりません。自分を再現して、永久の時間を永続して生きていく「義務」「命令」があるのです。

 無限コピー・無限ループの世界 といえるでしょう。すべてはここから始まります。

 環境からエネルギーと資源を、自分の体に取り入れてパイプのように通過させる過程によって、命を維持していくのです。

 人間の細胞には、核とミトコンドリアで別々の起源のDNAが存在しているそうです。

 もともとの細胞は、酸素を利用する能力がない単細胞生物(嫌気性)で、酸素の無い環境で分裂による単純な増殖が行われていました。
 しかし、やがて植物と呼ばれることになる単細胞生物が葉緑素から酸素を生み出すと、地球環境上に徐々に酸素が増えていき、嫌気性細胞は不利な立場に追い込まれていきます。

 同時に酸素を取り込んで効率よくエネルギーを作り出す、別種の単細胞生物(好気性)が生まれます。

 好気性生物は、活動すればするほど周囲の環境から酸素を奪いますので、自分で自分の生存環境を劣化させてしまいます。
 そこで嫌気性細胞に寄生することで、酸素が少ないときの避難場所となり、嫌気性細胞は寄生させることで、酸素への耐性を獲得し、間接的に酸素を利用する能力も持つことができました。

 こうした両者の融合は、双方に利益をもたらし、生物としての新しい枠組みを生み出すことになりました。
 現在の多細胞生物の細胞の核は嫌気性細胞、ミトコンドリアは好気性細胞が先祖ということなのです。

 酸素を使うことで嫌気性細胞がもともと生み出すより 13.7倍 のエネルギーを生み出せることになりました。
 (発生エネルギーが 1モルあたり50kcal → 686kcal となった)

 また、瞬間的なエネルギーは嫌気系が担当し、有酸素の持続的活動エネルギーはミトコンドリア系が担当して、双方の利点を集めたシステムとなりました。

 エネルギーが豊富になったことで、多細胞化も可能になりました。
 しかし、繁殖の問題が起きます。
 酸素を利用することで、細胞自体の酸化・劣化がおこるようになり、多細胞の形そのままでの不老不死はできなくなり、老化と寿命と、オスメスの性の分化がおきました。

 性の分化は、二つの個体から減数分裂を行った生殖細胞を提供しあい、融合してまったく別の個体となるというシステムです。
 しかしミトコンドリアのほうも同時にこのシステムを取り入れることができませんでした。
 ミトコンドリアを継承するためには、ミトコンドリアは減数分裂・融合することなく母系のミトコンドリアがコピーを重ねて継承されていきます。

 ここで、最初の生命の大命題の「無限ループ」は二つの側面を持つことになりました。

・自己が存続すること。

・子孫が存続すること。

 いうまでもなく、この二つの絶対が、生命すべての悲喜劇の原因となります。
 この二つは無視することも、克服することも、生命にはできないのです。

 そして、自己の存続は自己所有物の管理業務であり、子孫の存続は社会関係管理となり、まったく性質が違う「仕事」を同時にやらねばならなくなったのです。

 この二つの仕事は、矛盾をかかえています。やがて、矛盾をかかえた生命が人間となって、知性を獲得したあと、別の問題を発生することになります。

 ・・ジェイコブズの二つの倫理に続く

2015/12/01 T.Sakurai