<よいこの音楽べんきょう室・パート7>

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「ねえ先生、あたし、テレサテン、大好き!」

(また急に、何を言い出すのやら、このませガキは)あらそう、先生も大好きよ。どんなとこ がいいの?

「日本語が、たどたどしいとこ」

(たどたどしい!?おまえの日本語のほうが、よっぽど危なっかしいわ)そうね、ちょっと 舌っ足らず、みたいなとこが魅力よね。先生もコニーフランシスの『ボーイハント』なんて、 大好きだったわ。

「(誰それ?)ねえ先生、じゃ日本人が英語の歌を歌っても、外国の人はそう感じるのかな」

(そんなん、知ったことか)さあ、どうでしょうね。ただ、日本人同士は、別の 意味でシビアね。あいつは発音が悪いとか、意味がわかって歌ってないとか。

「へー、大人の人って、自分はしゃべれなくても、難癖だけはつけるのね。で、発音が悪いっ ていうのは?」

そうね、じゃ、sometimes come hereを、ちょっと発音してみて。

「えーっと、ソメチメス、コメへレ」

(いくら日本人でも、そこまでひどくないわい!)あ、あなたにはちょっとムリだったか な。じゃあ、たとえば、black and white film。これを、日本人だと、ブラック アンド ホワイ ト フィルムって発音するけど、ネイティブだと、ラ、ア、ワィ、フィの部分、つまり母 音の部分がしっかり聞こえるの。それに対して日本人はbとかckの部分、つまり子音の 部分の発音が苦手だから、そこを、ブ、ラ、ッ、クって発音しがちなの、だから、 それらしく聞こえない、みたいなー。

「ふーん、(ブ)ラ、ア(ン)、(ホ)ワィ、フィ(ルム)・・・ま、それらしく聞こえないこともないか。 じゃ、意味がわかって歌ってない、っていうのは?」

そうね、いろいろあるけど、訳詩間違い、意味の取り違え、裏読み不足、なんかかな。

「ふーん、いろいろあるんだね。訳詩間違いって?」

そうね、たとえば、You’d be so nice to come home to の「帰ってくれたらうれしいわ」なん てのは、come=「来る」、って思い込んで出来た、有名な誤訳ね。come home to のtoで、 homeに行くのは私、つまり、家に帰った時あなたがそこに居てくれたらいいのにな、って 意味なんだけどね。

「(ふん、さっきのコメヘレは、このcomeの前振りってわけ?)先生、ほかには?」

誤訳じゃないけど、Don't get around much anymoreという曲があって、
  Missed the Saturday dance
  Heard they crowded the floor
  Couldn't bear it without you
  Don't get around much anymore
こんな歌詞なんだけど、これみんな、頭の主語の I が省略なのね。だから、タイトルのDon't も、命令形に訳しちゃいけないのね。これを訳すと、
  土曜日のダンパ、行かんやったったい
  ものすご、賑やかやったげなね
  ばってんあんたがおらんけん、行く気のせんとたい
  ちかごろはもう、いっちょんさるかん(いっちょん=すこしも、さるく=歩きまわる)

「(ギャー、それ何弁!?)先生、個性的な訳するのね。じゃほかの、意味の取り違え、裏 読み不足、なんてのは?」

(うっせえなー、たいていにせえや)そうね、たとえば、
But beautiful は、「でも美しい」じゃなくて、beautiful=yes。 つまり、恋って楽しいとか 悲しいとかいろいろあるけど、それもいいとしよう、という意味。つまり、「ばってん、それでよか」。
As time goes by って「カサブランカ」の曲も、一般的には「時の過ぎゆくまま」って訳だ けど、
  You must remember this
  A kiss is just a kiss, a sigh is just a sigh
  The fundamental things apply
  As time goes by
これも、この前に「今んごつあわただしくて複雑な時代になったっちゃ大切なもんはひとつ」というのがあって、
  よかね
  キスはキスたい、ため息ゃため息たい
  そげんかもんばい
  どげん時が移り変わったっちゃくさ
つまり、as は、どんなに〜しても、の意味のほうがピッタリくるのね。

「(あー、そのへんな訳、止めてくれ〜、もう最悪!)先生の個性的な訳詩聞いてたら、なんか、 わたしも英語の歌が歌えそうな気がしてきちゃった。ねえ先生、こんど教えて」

(ソメチメス、コメヘレが何を言うか)いいわよ、でもその前に、その短い舌で少し英 語の発音練習をしたほうがいいわね。

「はーい、頑張りま〜す。でも先生みたいに、舌が二枚になるのは難しいかも、『どんなに 時が過ぎても』」

あら、舌は増やさなくてもいいのよ。そのかわり、その減らず口を、少し減らしたほうがい いわね。
じゃ、よいこの音楽勉強室、今日はこれまで。まったねー!