< 熊さん流・ジャズの勉強法「熊さんビブラートで悩む」>

           熊さん流・ジャズの勉強法「熊さんビブラートで悩む」


「ワレ、ワレ、ハ、ウチュウジン、ダ。コノ、トビラヲ、アケナサイ〜〜」
「え、誰か来たって?・・・おばあさん、ありゃ熊の野郎だよ。ほっとけほっとけ」
「ハヤク、アケナイト、ノ、ノドガ、イタイ!」
「うるさい奴だ、おばあさん、開けてやんな・・・近所迷惑だ、とっとと入えれ」
「へへへ、エー、オコン、バンワ〜〜」
「まだやってやがる。今日はなんの用だ」
「つきましては、ほかでもねえ、オ、オ、ヤ、サン〜〜」
「やめな、気味が悪い」
「のどをこうやって空手チョップで細かく突っつくと、声が震えるけど、のどが痛ぇだろ」
「当たり前だ」
「それなのに、金管楽器でビブラートをかける奴は、どうして痛くねえんだ?」
「・・・よくわからねえな、何を言ってるんだ?」
「だからさ、金管楽器のビブラートってのは、こうやってかけるんだろ」
「何を言ってるかと思ったら、お前は、ビブラートはそうやってかけると思ってるのか」
「へー、違うのかい」
「楽器で両手がふさがっているのに、どうやって、ワレワレハ〜、ってやるんだ」
「そりゃまぁ、俺もおかしいな、とは思ってたけど」
「呆れたやつだ。しかし、そう言うところをみると、ビブラートの勉強を始めたのか」
「そうなんだよ。大家さんどうせヒマなんだろ、チョロチョロっと、教えてくんねえな」
「何がチョロチョロだ。しかし、ビブラートを勉強するのはいいが、かける目的が分かっ てないと、逆効果になるぞ」
「目的?またまた屁理屈かよ。なんだろー、ようは、音が震えりゃいいんだろ」
「震えるだけでいいんなら、冷凍庫の中でやってろ」
「へっ、冷凍庫はひどいね。じゃ、どんな目的があるんです?」
「まあ、きちんと分けるのは難しいが、
1.装飾表現・・・音にハリや柔らかさを持たせて、メロディを際立たせる目的
2.心理表現・・・悲しい、寂しいなどの心象を聴き手に伝える目的
3.技能表現・・・デキシーらしさ、クールらしさなど、曲の雰囲気をかもし出す目的
これらの目的によって、かけ方にも違いが出てくるし、かけたり、かけなかったりもする」
「へぇー、かけない、ってのもありかい」
「そうだな、たとえば、フルバンドでは、ユニゾン・ソリ、つまりセクション全員がユニ ゾンだと、かけないのが慣例だ」
「なんでです?」
「揃えるのが難しいということもあるが、編曲者が、ユニゾンが持つストレートなメロデ ィの効果を意図していることが多いからだ。それから、メロディのバックでハーモニーを いく場合も、メロディを殺さないように、ビブラートをかけないことが多い。また、ソロ の場合でも、曲想によってはかけないこともある。こりゃ、熊さんみたいに、かけれない からかけないんじゃなくて、かけれるけどかけないんだ」
「大きなお世話だ。それよか、どうやってかけるか、はどうなってんだよ」
「あわてるんじゃない。じゃ、ビブラートの音の震えって、そもそも何だ」
「そもそも?反対から言うと、モソモソだ」
「ビブラートを勉強するときには、次の三つの変化に気を配るといい。
1.音程の変化
2.強弱の変化
3.音色の変化
例えば、トロンボーンはスライドの動きでもビブラートをかけれるが、音程の変化だけに気を取 られていると、ビブラートらしくならない。サックスで言えば、サム・テーラーなんて人 のビブラートは、2と3が強調されたビブラートだ」
「ほーほー、なるほどなるほど。で、やっとビブラートのかけ方を」
「待ちな、次はビブラートの波、についてだ。音ってのは、空気の波だから、
1.ビブラートの大きさ(ひとつの波のうねりの幅)
2.ビブラートの速度(波と波の間隔)
が大切になってくる。波の幅と間隔が極端に狭いと、バンドで言うところの「チリメンビブ ラート」になってしまう」
「なんなんす、そのチリメンてのは?」
「子供の浴衣の帯に使われる縮緬(ちりめん)という布のような、細かく震えるだけの、色 気の無いビブラートのことだ」
「やれやれ、では、やっとかけ方を」
「それから、ビブラートの時間的処理だが、
1.かけ始め・・・どんな長さの音に対して、どのタイミングからかけるか
2.かけ半ば・・・波をどう変化させるか、させないか
3.かけ終り・・・次の音にどうつなぐか、音の終りをどう処理するか
というのも大切だ」
「やれやれ、今度こそ、かけ方を」
「こうやって考えると、ビブラートってのは、野球の、個人プレーとチームプレー、のような もので、
1.ソロの場合・・・慣例に縛られず各自の個性を出す
2.合奏の場合・・・バンドの慣例に従いつつ全体の個性を出す
つまり、ビブラートというのは、自分の目指すかけ方を、自分で考えて手に入れる、それが大切だ、 ってことだ、わかったか」
「・・・てやんでぇ!ここまで気ぃ持たせといて、最後の最後になって『自分でやれ』ってのか、まったく。 そんなの、人間のやることじゃねえだろ」
「ワレ、ワレ、ハ、ウチュウジン、ダ」