ビブラートに関する考察


バンドマンにとってビブラート(vibrato=音を揺らす演奏方法)というのは、簡単そうに みえてなかなか手ごわいテーマです。

・グレンミラー楽団サックス陣の「真珠の首飾り」の、ウキウキするようなビブラート、
・サム・テーラーのテナーサックスの、むせび泣くビブラート、
・美空ひばりの「一人酒場で〜〜」という、心を揺さぶるビブラート、
・夏川りみの「なだそうそう−−−−−〜〜」という、張りのあるビブラート、

など、「個性表現」の大きな手段となっているのが、このビブラート。
ところがこのビブラート、よく聴いてみると、けっこういろんな要素が組み合わさっています。

【ビブラートの波の成り立ち】の要素
・強弱・・・音の強さ、弱さ、で波をつくる
・音程・・・音の高さ、低さ、で波をつくる
・音色・・・音の明るさ、暗さ、で波をつくる

上の3つに共通して加わるのが、

【ビブラートの形】の要素
・ビブラートの幅(波の大きさ)
・ビブラートの速さ(波と波の間隔)
・ビブラートの変形(音を延ばす中で、幅、速さの変化)

さらに、曲のテンポや曲想の違いによって、

【ビブラートの時間処理】の要素
・かけ始め・・・どの長さの音に、どこから波をつくるか
・かけ続け・・・かけ始めたら、その波をどうつないでいくか
・かけ終り・・・持続した波を、最後にどう処理するか

これに、ジャズの管楽器の場合などは、

【バンドの中でのビブラート】の要素
・一人でかける・・・波をつくる楽器が一個(ソロ、カルテットの菅楽器など)
・数人でかける・・・波をつくる楽器が数個(デュエット、ニュースカイラークなど)
・大勢でかける・・・波をつくる楽器が多数(ビッグバンドなど)

が加わり、そこでやっと、

【ビブラートの存在】の要素
・波をつくる
・波をつくらない
・一部の楽器だけ波をつくる

の判断が必要になり、

さらに、実際にビブラートをつくる段階では、

【ビブラートの製造】の要素
・唇や呼吸など、体でつくる(管楽器全般)
・楽器の揺れでつくる(トランペットの指、ハーモニカの手のひらなど)
・楽器の部分的な揺れでつくる(トロンボーンのスライド、ギターの弦など)

となって、これでやっと、

【ビブラートによる表現】の要素
・装飾表現(美しい、柔らかい、など)
・心理表現(心地よい、寂しい、など)
・技能表現(デキシーの雰囲気、クールの雰囲気、など)

へたどり着きます。ところが、バンドマンの間でも、
・「ビブラートはジーカン(感じ)イッパツ、ブンキ(気分)しだい」と言う人
・「このバンドのこの曲は、絶対このビブラートでないといけない」と言う人
などがいて、ビブラートの解釈はさまざま。
(オイオイ、ここまでの考察は、何だったんだ?)

ということで、お盆は、頭がゆらゆら揺れるほど暑くて外出する気にならないので、 ゆらゆら揺れる酔い心地で、いろんな曲のゆらゆら揺れるビブラートを聴いて、過ごすことにします。