創作落語「なすび」

                      創作落語「なすび」


えー、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。
なんでも今年は丑年だそうで・・・、誰が決めたんでしょうかね、干支ってえのは。あれ、 中国や日本だけかと思ったら、ベトナムとかタイにもあるそうですね。なんでも、兎の代 わりに猫がいるとかで。あちらの猫は、ネズミに騙されなかったでしょうね、きっと。
それにしても、最近の年賀状は、パソコンの絵のコンテストみたいで、中には、全然別の 人から、おんなじ絵が届いたりして。あれって、どうゆー仕組みなんでしょうねぇ〜・・・。

熊:おや、隠居、いたね。ま、とりあえず、明けましておめでとうござんす。
隠:熊さんか、とりあえずって言い草があるか。ああ、おめでとう。どうしたんだ、今日は 楽器の練習はしねえのか。
熊:なに、こう寒くっちゃ練習にならねえから、今日はお休みだ。
隠:正月早々あきれたやつだ。「一年の計は元旦にあり」、そんなこっちゃ、今年もろくな 演奏はできないぞ。
熊:ふーん、誰なんです隠居、その、イチネンのケイって、野郎は?
隠:人じゃない、一年の計、つまり、その年の練習計画は元日に立てろ、ということだ。
熊:へー、元日にね。ずいぶん気の早えぇ話だ。そういや、よく「一フジ二タカ三ナスビ」って言いや しょ。ありゃ、なんです?
隠:あれは、お正月におめでたいものの代表で、富士山、鷹、茄子のことだ。
熊:へー。富士山は高けえし、鷹は強そうだけど、なんでナスビなんです?ナスビでなく ったって、キュウリとか、ニンジンじゃ、いけねえんですか。
隠:そりゃ、ナスビというのは、そのー・・・なんだ、ま、お茶でもおあがり。
熊:いや、お茶はどうでもいいよ。おう、どうしてなんだよ。
隠:うるさいな。ナスビ、は・・・、昔は、漢字で「成す日」と書いた。
熊:えぇー、「成す日」ってんですか?
隠:そうだ。物事が成す日、ナスビということで、縁起がいい野菜とされたんだ。
熊:へー「成す日」ね。じゃ、なんですかい、野菜にはみんないわれ、みたいなモンがあるんです か。
隠:ああ。
熊:じゃあ、キュウリは?
隠:キュウリは、昔は「九里」と書いた。
熊:「九里」?どうしてです。
隠:キュウリは水分が多い。あれをかじれば、炎天下でも九里は歩けるから、キュウリだ。
熊:へー、あれ一本で、九里ね。じゃ、ニンジンは?
隠:ニンジンは、日本人に合った野菜だ。それでニホンジン、と言っていたのが、ホがな くなって、ニンジンになったな。
熊:えー、なんで、ホがなくなったんです?
隠:馬鹿だな。ニンジンに、穂があるか!
熊:なるほど、ニンジンに穂はないね。ダイコンは?
隠:うるさいやつだな。ダイコンは、切り口が太鼓に似ているから、ダイコと言っていた のが、太鼓みたいに響きがいいようにンが付いて、ダイコン、大根になったな。
熊:へー、響きがね・・・。中ぐらいのも、小さいのも、ダイコンってえますね。チュウ コンとか、ショウコンとか言わないんですか。
隠:お前は、当らない役者を「ダイコン役者」と言うのを、知ってるか。
熊:ええ、聞いたことがありますね。
隠:あれは、ダイコンをいっしょに食べると食中(あた)りしない、当らない、というところからきている。 舞台の役者を野次るとき「ヨッ、ダイコン!」と言えば声が通るが「ヨ、チュウコ〜 ン」「ヨ、ショウコ〜ン」じゃ、声が通らないだろ。だから、ダイコンだ。
熊:なんだか変だね。それじゃ・・・。
隠:おいおい、そんなことより、今年は丑年だ。上手くなりたかったら、帰って、モー練 習、でもしたらどうだ。
熊:大丈夫、やるときゃ、ギューギュー詰め、でやるから。