熊さん流ジャズの勉強法「熊さんテンポで悩む」


             熊さん流ジャズの勉強法「熊さんテンポで悩む」


熊:「イチ、ニ、イチ、ニ、イチニのサンシ、と、イチ、ニ、イチ、ニ・・・」
大:「おや、熊さんじゃないか、どこへ行くん・・・・あれ、行っちまいやがった。変な野郎 だ・・・おや、また戻ってきた。おい、熊さん!」
熊:「おや、大家さん、イチ、ニ、イチ、ニ、コンチハ、サイナラ」
大:「おいおい、待ちな。何をしてるんだ、え」
熊:「何って、見りゃわかるだろ、歩いてんだよ。飯食ってるように見えるか」
大:「そうじゃなくて、そんなにセカセカ歩いて何をしてるんだと、聞いてるんだ」
熊:「セカセカ?ふーん。ってえと、144はアレグロじゃなくて、セカセカか?」
大:「また訳のわからないことを言ってやがる。なんだ、そのアレグロってのは」
熊:「あれ大家さん、いい歳をしてアレグロを知らねえのかい、アレグロだよ、アレグロ。 海でとれるのはノドグロ、大家さんは腹黒」
大:「馬鹿なこと言ってんじゃない。しかし、ジャズではアレグロなんて言葉、あんまり使 わないと思うんだが、熊さん、どこでアレグロを仕入れてきたんだ」
熊:「そこだよ・・・あれ、『えー、どこだい?』って探さないのかい」
大:「熊さんじゃねえや」
熊:「そうかい、残念。なにね、隣町のバンドでやる曲に「四分音符=144」って書いてあ ったんで、こりゃなんだって聞いたら『テンポ記号です、メトロノームで確かめておいてく ださい』って言いやがった」
大:「言いやがったって言い草があるか。それは1分間に四分音符を144回刻むテンポ、と いうことだな」
熊:「そうだってね。それで、メトロノームに合わせて歩きながら、テンポを覚えようと思って」
大:「ほう、そりゃ熊さんにしちゃ上出来だ。だが、アレグロってのは?」
熊:「それだよ。で、メトロノームを見たら、数字ごとにアンダンテとか、プレストとか書いてあって、 120から168まではAllegroって書いてあるじゃねえか。だから、144もてっきりアレグロ だと思ってたが、セカセカなのかい」
大:「そういうことか。そりゃ熊さん、ちょっと待ちな」
熊:「待てとおとどめなされしは、あ、拙者のことで〜、ゴザ枕〜」
大:「なにを見得を切ってんだ。あのな、アレグロってのはイタリア語な んだが、そもそもはテンポを表す言葉じゃないんだ」
熊:「へー、じゃナンなんです」
大:「ちょっと話が長くなるが、まず、メトロノームについて。元になる機械は1812年にオランダのウィンケルと いう人が考案したんだが、それを改良して1816年にメトロノームとして特許をとったのは、 ドイツ人のメルツェルという人だ。ちなみに、今でもテンポ記号にM. M.と書いてあるのがあるが、あれはメルツェルのメトロノームで、ということだ。つい でに言うと、それを初めて使ったのは、かのベートーベンと言われているな」
熊:「ふんふん、確かに話が長げ〜や」
大:「黙って聞きな。で、アレグロはイタリア語で「陽気に、楽しく」の意味なんだが、 問題は、メルツェルが、曲にそう書いてあるのを見て、それをテンポを示す表記として、メトロ ノームの数字に当てはめてしまったことだ。で、それが定着してしまい、アレグロから「陽気に」の 意味が消えて、テンポの意味だけが広まってしまった、というわけだ。陽気で楽しい曲は確 かにテンポが速いが、アレグロ自体にはテンポの意味は含んでいないんだ」
熊:「ふーん、そうかい。俺ぁ、イタリアに行ったら、タクシーで急ぐ時には運転手に 『アレグロ、アレグロ!』って言おうと思ってた」
大:「ウソつけ、イタリアがどこにあるかも知らないくせに」
熊:「ところで大家さん。メトロノームの数字ってのは63とか、144とか、なんであんな にバラバラでヘンテコなんだい」
大:「確かに不規則に見えるが、よく見てごらん、
40 〜 60・・・2刻み  ( 42、44、46〜)
60 〜 72・・・3刻み  ( 63、66、69〜)
72 〜120・・・4刻み  ( 76、80、84〜)
120〜144・・・6刻み  ( 126、132、138〜)
144〜208・・・8刻み  ( 152、160、168〜)
になっている。遅いテンポほど刻みが小さく、速いテンポほど刻みが大きい、という設定だ。 最近はデジタルのメトロノームが多いから、130とか140とか、キリのいいテンポが指示して あることが多いな」
熊:「なるほど。で、なにかい大家さん、テンポってのは、絶対的なもんなのかい」
大:「それは、時と場合によるな。たとえば、ジャズで『枯葉』をやる場合、遅いテンポだ ったら、しんみりした曲想になるし、ミディアムやアップテンポだと、またそれぞれ違った雰囲気の曲になる。 どのテンポが絶対、ということはないな」
熊:「なんだと、じゃあ、靴を擦り減らしてテンポを覚えるこたあ、ねえじゃねえか!」
大:「いやいや。たとえば、作曲者や編曲者の意図を正確に表現しなければならない曲では、 指定されたテンポを正しく守らないと、せっかくの曲想が台無しになってしまう。それから、 ダンスバンドの場合は、踊りの種類によって厳しくテンポを指定される」
熊:「ふーん。じゃ、俺のイチ、ニの、サン、シも、あながち間違っちゃいねえわけだ」
大:「なんにしても、テンポってのは大切なもんだ。熊さんみたいに、『台風の後の商店街』、みたいじゃ、ダメだぜ」
熊:「『台風の後の商店街』?なんだい、そりゃ?」
大:「店舗(テンポ)がメチャメチャ」