短歌「バンドマン泣き笑いの日々」

 新しい 楽器を買って はしゃぐなり
      これが苦難の 始めと知らず

(ブラスバンド時代の思ひ出を詠める)
 音よりも 言葉を好める 指導者あり
      今日も吹かずに 練習終わる

 元日の 閑散とした キャバレーで
      これも試練かと 自問自答す

(バンド部屋の思ひ出を詠める)
 人は人 我は我とは 思えども
      いじめかトニックの ビンにガソリン

(2nd時代の思ひ出を詠める)
 今日もまた 同じところで ミスったと
      笑うトップに 媚びるな なじむな

 「音楽で頑張ってる」と 仲人の
      祝辞に妻の 父はうつむく

 新妻を 近くの実家に 迎えゆく
      義母(はは)の暮しを 夜型にして

 他人(ひと)が皆 我よりうまく 見ゆるなり
      愚痴聞く妻の 我慢強さよ

 今日もまた 飲むのと妻の 問いかけに
      飲まぬつもりの 冷蔵庫を開く

 ここは何処?! 駅のベンチで 目覚めれば
      お日様高く 我を見おろす

(バンドマンの子育てを詠める2題)
 夜中過ぎ 帰る夫に はしゃぐ子を
      見れば哀しや バンドマン妻

 真夜中に 眠らぬ子を連れ ゲーセンへ
      まばらな人に はしゃぐ子哀れ

 ただ一枚 残れる未熟な レコードの
      音は日に日に 苦き思い出

 トップより サイドの楽譜 吹きたがる
      少し枯れたか 燃えぬバンマス

 客は知る 自分は知らぬ もどかしさ
      客席で聴いて みたい我が音

 酔うほどに よく吹けると言う うぬぼれよ
      客の身になれ 店の身になれ

 キャバレーの 跡の工事に 足が向く
      パチンコ店だと わかっていても

 バンド部屋 明るくはしゃぐ ふりなのに
      いつしか人は 性格と言う

 チャリ乗れば イボ痔歩けば 関節炎
      バンド暮らしの いとほしきかな

 バンマスの 死は肝硬変との うわさ聞き
      グラスを置いて しばし手を見る