えー、最近のお若い方ってえのは、なんてんですか、ピッチャー、じゃなくて、キャッチ
ャーじゃなくて、ファースト・・・そうそう、ファーストフードってのが大変お好きなよ
うで。ありゃ目新しいようですが、江戸時代の鮨なんてのも、実はファーストフードのは
しりのようなもんで。おまんまを発酵させる手間を省いて、酢飯に魚をのっけて喰うって
えんですから。ま、いつの世でも、便利で早いもんてのは人気があるようですが。
熊:「おうおう、大家さん、ちょっと見てくんねえ」
大:「なんだ熊さんか、おや、とうとう楽器を買っちまったのか」
熊:「そうなんだよ。ちいと高けえ買い物だったが、芸術家になるためにゃしょうがねえ」
大:「まだ言ってやがる。だいたい熊さんには、芸術家になる三要素がねえ」
熊:「三要素?そんなもんがあんのかい」
大:「ある。よく、相撲なんかで言われるやつだ」
熊:「へー、なんなんです」
大:「シンギタイ、だな」
熊:「そうかい、最近様子がおかしいとは思ってたが、いよいよ大家さんも、死にたいか」
大:「何を言ってやがる。死にたいじゃねえ。心技体だ、つまり、心、技、体、だな」
熊:「だな、って、ただバラしただけじゃねえか。おう、ちゃんと説明しろい」
大:「また始めやがった。まず心はココロ、つまり精神、頭の中身、だ。ジャズをやるなら、
人一倍勉強し、いろんな音楽を聴き、豊かな人生経験を積まなきゃならねえってこった。
ま、熊さんは心配いらねえな、頭の中はいつも、賑やかだからな、カラカラと」
熊:「ふふ、おだてちゃいけねえ」
大:「誰もおだてちゃいない。次が技、ワザだな。いくら頭の中にアドリブのフレーズが詰
まっていても、肝心の、それを音として表現する演奏技術がなきゃ、どうにもならない。
そのためには、人一倍練習しなくっちゃならないな」
熊:「また人一倍かい、これで人二倍じゃねえか。なんだな、そいつぁどっかで売ってねえ
のかい、一束いくら、とかで」
大:「ワザが売ってありゃ、誰も苦労しねえや」
熊:「ふーん、で、タイってのは」
大:「体、つまりカラダだな。意外かもしれないが、実際に人前でジャズをやる時に、一番
重要なのは体力だ。ステージで長い時間、緊張を持続して演奏するってのは、実は大変な
肉体作業だ。そのためには普段から体力を蓄え、体調を整えとかなきゃ。熊さんみたいに
ファーストフードばかり食ってるようじゃ、三つともだめだな」
熊:「三つとも?どういうわけで三つとも、なんで」
大:「まず、箸を使わないから、技がだめになる」
熊:「なるほどね、じゃ、体は?」
「ポテトにジュースじゃ、ジャズをやる体力は出来ない」
熊:「ふーん。でも、心は、関係ねえだろ」
大:「いや、熊さんがいつも食ってるのは、半馬鹿(ハンバーガー)だ」
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