『ジャズ・クッキング教室』

          『ジャズ・クッキング教室/第一回デキシーランドジャズ』


「皆さん、こんにちは!『ジャズ・クッキング教室』の時間です。今日も楽しくジャズを料 理したいと思います、最後までごゆっくりお楽しみください。
私は案内役の、キッチン・ペイパーです。そして今日の講師は、いつもオカマ っぽいコメントでおなじみ、チャン・ナオン先生です、チャン先生、よろしくお願いしま す」
「ハイ、今日も楽しくお料理するわよ、スハハハハ!」
「・・・あのー、先生、今日はどんなジャズを料理するんでしょうか」
「ハイ、今日は一般の人にもよく知られている、シーデキを料理してみましょう」
「先生、シーデキというと、正式にはデキシーランドジャズ、つまりアメリカ南部ルイジアナ州ニュー オリンズあたりで発生したといわれる、クラシカルなジャズですね」
「そう。今日は、ニューオリンズジャズとデキシーランドジャズを区別しないで料理するけど、日本人の 半分は、ジャズと言ったら、シーデキを思い浮かべるんじゃないかしら」
「なるほど、ジャズと言えば『聖者の行進』と言う人も多いですよね。では、材料をご紹介 しましょう。
コルネット・・・・1本
クラリネット・・・1本
トロンボーン・・・1本
ベース・・・・・・1本
バンジョー・・・・1本
ドラムス・・・・・1セット
ピアノ・・・・・・1台
先生、ずい分いろんな材料が必要なんですね」
「あら、各1本ずつだから少ないほうよ、初めの頃は、ダンスパーティとかで大きな音を 出すために、もっと沢山だったんだから。コルネットが無かったら、トランペットでもい いわよ」
「先生、コルネットとトランペットは、どう違うんですか」
「そうね、コルネットが先輩で、トランペットが後輩。でも、後輩のほうが優秀で、 先輩は追い越されちゃったのよ、ス、ハハハハ!」
「・・・あのー、二つは大きさが違って見えますけど、音色とか音域とか同じですか」
「そうね、コルネットは管に円錐のとこが多いから音が柔らか。それと、コルネットはつ むじが二つ、トランペットはつむじ一つ」
「先生、つむじって、管の巻きのことですね」
「そ。だから、管の長さは同じでもコルネットの方が小っちゃく感じるし、子供が持ちやすい から、ブラスバンドでも使われるのね」
「それから先生、ピアノも要るんですか」
「そうね、初期のシーデキだったらなくてもいいけど。ピアノは白人のステイタスシンボルだ ったから、黒人バンドでは初めは使われなかったの。のちに、周囲の反対を押し切って使うよ うにしたのは、黒人のコルネット奏者バディ・ボールデンって人」
「そうですか。それから先生、ドラムはセットで用意するんですね」
「そうね、初期のころは大太鼓、小太鼓、シンバルなんて、全部別々の人が演奏してたから、 Drum、って単数だったし、ギャラも人数分必要だった。けど、ディー・ディー・チャン ドラーって人が足踏みペダルを考え出して、小太鼓を叩きながら大太鼓も叩くって工夫し たら大流行、そのうちシンバルなんかも全部まとめて一人で叩くようになったから、Drum じゃなくて、Drumsって複数になったわけ。おかげでギャラ大節約、バンマス万々歳ね。じ ゃ、これらの材料をお鍋に入れて弱火で長めに火を通しまーす」
「弱火の長め、ですか」
「そう、ジャズが生まれる前の準備段階だから、少し時間がかかるのね」
「はい。・・・先生、デキシーって、フランスのお札の10、DIXが元ですよね」
「んー、でも、南北アメリカの境界線、メーソン・ディクソン・ラインを測量したジェ アーミン・ディクソンからデキシーランド、になったという説も有力ね」
「そうなんですか・・・先生、これ、なかなか、ジャズっぽくなりませんけど・・・」
「ハイ、ここがポイント。ここで黒人霊歌、白人の教会音楽、ブルース、ラグタイムを入れて、今度は 強火で蒸します」
「蒸すんですか」
「そう、ニューオリンズは湿気が多くて暑いから」
「でも先生、ニューオリンズって綿花で有名ですけど、綿花って湿気の多いとこじゃ育た ないんじゃないんですか」
「あんたね、ニューオリンズは綿花を作るとこじゃなくて、運び出すとこだったのよ」
「ああ、そうなんですか・・・あ、先生、なんかドロドロしてきました」
「はい、それがシーデキ独特のねばりね。それから次に、隠し味に性的スラングと、チリ メンビブラートをいれまーす」
「なんですか、それ?」
「一般的に、ジャズの発祥はストーリービルっていう娼婦街で『ジャズ』の語源は性的スラング(俗語) 、って言われてるし。それから、チリメンってのは震えるようなビブラートのことで、初期のビ ブラートはそんな感じだし、シドニー・ベシェとか」
「そうなんですか・・・あ、先生、なんかすごい臭いがしてきましたけど、大丈夫ですか」
「なに言ってんの、このオイニーがシーデキの特徴よ」
「オイニーって、臭いですね」
「よっしゃー、いい感じ。じゃ火を止めて、お皿に盛り付けてみましょうか」
「はーい、出来上がりでーす。ではさっそく頂いてみましょう・・・あ、 単純のようにみえて、なんとも深い味わいがあって・・・それとこの臭い、じゃなくてオイニーが、な んとも言えない独特の風味をかもし出してますね、先生」
「そうでしょ。よく、シーデキはジャズの原点で初心者にも分かりやすいジャズって言われるけど、 本当は、濃くて癖の強〜いジャズなのよ」
「そうなんですね。はい、ご馳走さまでした。先生、今日はどうもありがとうございました。
皆さん、今日のジャズ・クッキング教室、いかがだったでしょうか。
では、次回をお楽しみに、また来週〜・・・は、ねえよ」