星新一風「ショート・ショート」4話


≪第1話・ジャズ演奏ロボット≫

「助手のA君、ついに、ジャズを演奏するロボットを完成させたぞ」
「N博士、おめでとうございます。ただ楽器を演奏するだけのロボットは、今までにもあ りましたが、ジャズを演奏するロボットは、世界でも初めてですね」
「そうだ。さあ、さっそく演奏させてみよう・・・・・どうだ?」
「先生、なんだか、ジャズっぽくありませんね」
「んー、そうだな。どうしてだろう」
「先生、私にちょっと試させてください」
「君がかね?よし、やってみたまえ」
「先生、出来ました。今度はどうでしょう?」
「・・・おお、ジャズっぽい演奏になったぞ。いったい、どうやったんだ?」
「人間のバンドマンと同じようにすればいい、と思ったんです」
「なるほど。それで、どうしたのかね?」
「頭のネジを、少しゆるめてみました」


≪第2話・地球を救った男≫

M氏はバンドマンである。今日も店で演奏した後、夜道を家に帰るところだ。
「やれやれ、今日もうまく演奏できなかったな、そうだ、ここで少し練習していこう」
M氏は町外れに来ると、ケースから楽器を取り出して練習を始めた。
「ブォー、ブヒーッ、ギョビー」しばらく練習して、M氏は帰って行った。

一台の宇宙船が、M氏が練習を始める直前に、すぐ近くに着陸していた。M氏が去ったあ と、その宇宙船から、二人の宇宙人が這い出して来た。
「船長、だ、大丈夫ですか」
「な、なんとかな」
二人の会話はすべて、テレパシーで行われていた。
「しかし、この星を征服しに着陸したとたん、いきなり波動砲の攻撃を受けるとは思わな かった。さっそく私たちの星に帰って、あの金色の武器のことを伝えなければ」
「ええ。まったく、恐ろしい武器もあるものですね」

2人の宇宙人は宇宙船に乗り込み、自分たちの星に帰って行った。彼らの星には空気がな い、そのため、音が存在しない、もちろん音楽も、そして楽器も・・・。


≪第3話・新しい価値≫

「Nプロデューサー、次のジャズCDの製作準備はどうなっているんですか。まだ、録音する 曲も、プレーヤーも、何も決まっていませんが」
「心配しなくてもいい、今度のCDでは、そういうものはいっさい使わないのだ」
「というと?」
「今度は、まったく無音のジャズCDを作るんだ」
「えっ、そんなCDが売れるんでしょうか」
「大丈夫、必ず売れる。今のジャズファンが最も求めているもの、それは『静寂』なのだ」


≪第4話・ジャズの真の開拓者≫

「L博士、C博士、M博士、タイムマシーンの完成、おめでとうございます」
「ありがとう、助手のA君。私たち3人は、ずっとタイムマシーンの研究ばかりしていて、 青春時代にやりたいことがやれなかった。これでやっと、若い頃に戻って、クラッシック 以外の音楽の分野を開拓するという、長年の夢をかなえることが出来る。では、行ってく るぞ」
「いってらっしゃい、気をつけて」
ところが、タイムマシンが出発してしばらくすると、助手Aの意識は、だんだんと薄れて いって、ついには、自分の存在そのものさえ、分からなくなってしまった。

「あなた、ちょっと、起きたら。また、ジャズのレコードを聴きながら、寝てしまったのね」
「あ、君か。あー、変な夢をみた」
「変な夢って?」
「うん、僕が、タイムマシーンを作る研究所で、3人の博士の助手をしているんだ。そして、 その3人のL博士、C博士、M博士、というのが、ルイ・アームストロング、 チャーリー・パーカー、マイルス・デイビス、にそっくりなんだ・・・」