バンドマン文化講座「川柳」編(下)
皆さんこんにちは、バンドマン文化講座のお時間です。
今回も、前回に引き続き、バンドマンをテーマにした「川柳」をお勉強します。
解説してくださる講師は、萬同萬(ばん・どうまん)先生です。では先生、よろしくお願
いいたします。
皆さんこんにちは、萬同萬です。
今回もバンドマン川柳をお勉強しましょう。今回はその中でも、哀愁の漂う句を取り上げ
てみたいと思います。まず初めは、こんな句から。
<アドリブ演奏編>
【アドリブが あんなに出来た 夢の中】
【数撃てど 当たらないもの アドリブは】
【アドリブ後 よく寝た客ほど 手をたたき】
キャバレーのバンドマンとは言えど、やはり目指しているのはジャズ、それもアドリブの
追求、なんですね。夢の中にもアドリブが出てくるほどです。でも、前人のアドリブを勉
強すれば「マネ」と言われ、オリジナルを目指せば「自己流」と言われる、そして頑張れ
ば頑張るほど、客はよく寝る、なんてこったい!ああ芸術は長い、人生は短い、そんな哀
愁に満ちた句ですね。
<生活編>
【年1度 でも持て余す 店休日】
【夜の街 昼間は迷う バンドマン】
【バンドマン それでもいつしか 子をもうけ】
【夜帰りゃ 子どもが妻の 伝言板】
バンドマンの生活といえば、完全な夜型。そして、休みはというと、年に1日大晦日だけ。
それでも、休みの日には何をしていいか分からず、昼間に街に出ると、店の周りでさえ道
に迷う。
そんな生活でも、いつしか子供が出来、夜帰ってきて「もう寝たか」と聞くと、「うん、明
日早いから先に寝るって、お母さん」と、子供が答える。そんな哀れを誘う句ですね。
<老バンドマン編>
【食事前 元気な順に 薬出し】
【老バンド 会話は弾(はず)むが かみ合わず】
【老バンド 「トボケ」がいつしか 「ボケ」になり】
【譲られて 楽器だけ置く バスの席】
そんなバンドマンたちも、いつしか年をとり、食事の前といえば薬自慢。そしてバンド内
の会話といえば、弾んでいるのに、自分勝手なことを言っていてちっとも噛み合ってない。
そのうち、とぼけていると思ったら本当にボケてたりするんですね。それでも、バスで席を
譲られると(わしゃ老人じゃない!)と意地をはって楽器だけ置かせてもらう。ああ、哀
れなりバンドマン、ですね。
<バンドマン失職編>
【クビを切る バンマス得意な 褒め殺し】
【エキストラ 今日でリストラ 飲んでトラ】
そして、時代の流れで、キャバレーバンドにも不景気の波がやってきます。そんな時バンマス
は、メンバーには「あんたならどこでも通用するよ」、トラ(エキストラ)には「明日から
いらん」、と声をかけて人員整理。でも、結局そのバンマスさえも要らなくなる、そんな時
代を迎えることになるんですね。
<その後のバンドマン編>
【バンド辞め 転職、閑職 いま無職】
【ノーテンキ バンド辞めたら ノー年金】
バンドマンが音楽以外に出来ることといったら、運転ぐらい。ということで、失職後はタ
クシーの運転手、薬事関係の車の運転手、それに警備員などに転職。でも、夜型人間で、
楽器より重いものを持ったことがなくて、接客下手、となれば、長続きするはずがない。
おまけにバンドマンは現金崇拝主義だから、年金の積み立てなんかもしてないんですね。
【バンド辞め 暇もてあます 妻の留守】
【趣味聞かれ 「音楽以外」と 見栄を張り】
いよいよやることがなくなって、パチンコにテレビ三昧の毎日。奥さんがいないと、メシ
も食えないという、バンドマンの淋しい末路ですね。
それでも、「音楽をやられてたんですか、いいご趣味をお持ちですね」と言われると、「音
楽は趣味じゃない、仕事だ!」と見栄を張る。そんな、意地だけで生きているバンドマン
です。しかし、そんなバンドマンも、今ではこの世からいなくなりつつあります。
さて皆さんには、これらの川柳を通して、少しでもキャバレーバンドマンの生活を知って頂け
ましたでしょうか。長い時間ご清聴頂き、ありがとうございました。
先生、どうもありがとうございました。
皆さん、先生の講座、いかがでしたでしょうか。少しでもタリハツ(ハッタリ)の教養が
身につきましたでしょうか。では、次の講座をお楽しみに。
また来週〜、はねえよ。
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