熊さん流・ジャズ勉強法「サクソルンって何?」


             熊さん流・ジャズ勉強法「サクソルンって何?」


熊:もしもし、大家さん、えー、もしもし、大家さん、聞こえますか?
大:ばあさん、なんか玄関のほうでボソボソ言ってると思ったら、熊の野郎だよ。おい、 何をゴニャゴニャ言ってるんだ。あがるなら、さっさとあがれ。
熊:えー、もしもし、聞こえますか。
大:バカヤロ、お前の鼻の頭の前にいるんじゃねえか。なにが、聞こえますか、だ。
熊:やっぱり話が通じてるよな。んー、ってえと、俺の耳も、悪くはねえんだな。
大:ふーん、耳がどうかしたのか。練習のし過ぎで、耳の調子が悪くなったか。
熊:冗談じゃねえ、自分の音で耳が悪くなるほど練習してりゃ、一流バンドマンになって、 こんなボロマンションなんぞに、住んでやしねえ。
大:大きなお世話だ、家賃もろくに払ってないくせに。で、いったいどうしたってんだ。
熊:いえね、先週、隣町のバンドの練習に行ったとき、バンマスってのが高慢なツラして「ここ のパートは『サクソルン』系の楽器でやったら面白いかも」、って言いやがった。あ、こい つ、サクソフォンをサクソルンって、カミやがったと思ったら、みんなも「ああ、そうだ な」ってんで、別に不思議がる様子もねえんだ。どうも、俺の耳が変になったらしい。そ れとも大家さん、俺が吹いてるのは、テナーサクソフォンじゃなくて、テナーサクソルン、 ってのが本当なのか?
大:なんだ、それでゴチャゴチャ言ってるのか。そりゃ熊さん、誰の耳も悪くない。サク ソフォン(saxophone)とは別に、ちゃんと『サクソルン(saxhorn)』ってえ楽器の分類 があるんだ。
熊:サクソルン?サクソフォンじゃなくてかい、なんだいそりゃ、おっさん。
大:おっさんとはなんだ。熊さんも、自分の吹いてる楽器のことぐらいは知っておいたほ うがいいな。サクソフォンというのは、ベルギーの楽器製作者、アドルフ・サックス(Antoine Joseph Adolphe Sax)てぇ人が、1846年に作った、木管楽器群だ。で、サクソルンっ てのも、この人が作った、金管楽器群のことだ。
熊:やたら自分の名前をつけたがるんだな。しかし、楽器群ってえからには、いろんなサクソ ルンがあるってことかい。
大:ああ。サクソフォンにアルト、テナー、バリトンなんかがあるように、サクソルンに も7種類ある。ちょうどここに写真がある、そら、こんな楽器だ。
熊:ふーん、これかい・・・ユーホニウムみたいな形で首のながーい楽器が、大から小ま で並んでるな。
大:そこだよ。
熊:えーっ、どこですーっ?????
大:久しぶりのボケだな。つまり、今のユーホニウムや、わしらが若い頃のブラスバンド では一般的だったアルトホン、バリトン、小バス、E♭バス、なんてのの、ご先祖様がこれにあたる。 それで、今でもそういう楽器を称して、サクソルン属の楽器と呼ぶんだ。
熊:じゃ、あんときバンマスが言ったのは「ユーホニウムみたいな楽器を使ったら面白い」 ってことだったんだな。
大:たぶん、そうだろうな。
熊:・・・大家さん、この楽器、変じゃねえか。だって、ここにマウスピースがあって、 ここにバルブがある、ってことはだ、これを吹こうと思ったら、ベルが後ろ向きになっち まうぜ。この写真、ガセじゃねえか。
大:ガセってえやつがあるか。いや、これでいいんだ。これは、オーバー・ザ・ショルダ ー・サクソルン、といって、肩にかけてベルが後ろを向くように作ってあるんだ。
熊:ハハハ、なーるほど、下手な音が客に聞こえないように、だな。
大:自分といっしょにするんじゃない。そうじゃなくて、これは、アメリカの南北戦争で も多く使われた楽器で、軍隊の先頭を行く音楽隊の音が、後方を歩く兵隊さんに聞こえるよ うに、こんなふうに作ってあるんだ。しかし、戦争が終わってステージで演奏するように なると、確かに、これじゃ音が前に聞こえないってことで、いろいろと改良が加えられて、 今の形になっていったわけだ。
熊:ふーん。ところで、今でもそんな楽器ってのはあるのかい。
大:ああ。熊さんはジャズバンドから始めたから、馴染みがないかもしれないが、マーチン グ専用の楽器など、ふだんは目にしないような楽器がいろいろある。また、スタンケントン のバンドではメロホンという、ホルンみたいな形の楽器も使われてたし、ニュースカイラー ク・ジャズオーケストラでは、フリューガボーンという、フリューゲルホンの親方みたいな 楽器を使う人もいる。いつものジャズサウンドに、変化をつけるのに使われてるな。
熊:なーるほどね。しかし大家さん、昔の人ってのは、バカみたいにいろんな楽器を作っ てたんだな。
大:バカとはなんだ、バカとは。そもそも、管楽器ってのは、一本のただの筒から始まって、 それに穴をあけたり、発音体を付けたりして、先人達がいろんな工夫をを重ねて、長い歴 史を経て、今の楽器に進化してきてるんだ。それをバカなんて言うと、罰があたるぞ。
熊:大丈夫だよ、大家さん、サクソフォンは打楽器じゃねえから、バチ(撥)はあたらねえ。