バンドマン風落語「三軒長屋(下)」


                  バンドマン風落語「三軒長屋(下)」


さて、バンマスとドラムの先生が何やら相談をいたしました、その数日後・・・。

「ごめんください」
「はい・・・、あぁ、あの、少々お待ちくださいませ、・・・ちょっとあなた、お隣りのドラムの 先生がみえてますけど」
「え、ドラムの先生って、テケテケドコドコ、の?いったいなんだろな・・・ああ、これはこれは。いつもうちのがお世話に なっております。いつもお噂してるんですよ、こんな寂しいとこなんで、隣りに男性の方 がいらっして心強い限りだってね。まあ、お上がりください」
「いや、そうもしてられなくて。実は、このところ生徒が増えて、今の場所が練習するの に手狭になってきたので、今度、引っ越すことになりまして。そのことで」
「引っ越す?しめた!あ、いえ、こっちのことで。それで?」
「で、恥ずかしながら、引越しの費用が手元不如意。そこで、その資金を集めるために、今度うちでド ラム合戦というイベントをやります。客を集め、いろんなドラマーを呼んで、3日間、昼夜を問わず、 ドラムを叩きまくるという催しで。つきましては、客の出入りやなにかで、少し騒がしいか もしれませんが、3日間、どうぞご容赦願いたいと思いまして、そのご挨拶に」
「ゲーッ、あのドラムの音が3日間!?いえ、それはご熱心なことで。・・・しかし、先 生、失礼ですが、そのドラム合戦とやらで、お幾らぐらい集まるんで?」
「そう、ざっと50万円も集まれば上出来、と思ってますが」
「50万?すると、50万円あれば、そのドラム合戦というのは、やらなくていいわけです か。ねえ先生、こ相談ですが、その50万円、あたしに出さしていただけませんか。いや、 あたしの商売がサラ金だからというんじゃなくて、それはあたしのふところ銭。日本の優秀な ドラマーを育てるのに、是非ともお役に立てて頂きたいと思うんですが。もちろん、返して頂かなくても けっこうなんで。いかがでしょうか」
「え、あなたが?いや、それはちと心苦しいが・・・ま、そうまでおっしゃるのなら、ご拝借す るとしますか」
「そうですか、早速のご承諾、恐れ入ります。おいおい、奥の手文庫をこっちへ・・・じゃ先 生、裸ですみませんが、ここに50万円ありますので、お納めください」
「これはこれは、まことに恐れ入ります。それでは、返せるあてが出来ましたらお返しす る、ということで拝借つかまつる。では、ごめん」
「どうぞお達者で・・・やれやれ、帰ってったよ。ドラム合戦?人を殺す気かってんだ。 おい、ミタさん、玄関に塩をまいとくれ。『かしこまりました』ばかり言ってないで、 さっさとやんなさい。ん、もったいない?なーに、追い出すときのゴタゴタを考えりゃ、 50万で済みゃ安いもんだ、なあ。これで片方片付いた」

「ごめんください」
「はーい、あら、あの、ちょっとお待ちください・・・ねえ、今度は、お隣りのバンマスが おみえですけど」
「バンマスが?ふーん・・・おや、バンマス、久しぶりだね。最近はあんたんとこの店にはご無 沙汰しているが、あんたのバンド、サウンドに切れがあるって評判だぜ。たいしたもんだ。 それで、今日はなんだい」
「いえね、実は、ボーヤ(見習いバンドマン)連中をレッスンするのに、今の場所が手狭に なったんで、今度、引越しをすることになりまして、今日はそのことでご挨拶、というか、 お願いにうかがったようなわけなんで」
「え、引っ越す?へー、今日は大安か・・・いや、なんでもない。それで、なんだってんだ い」
「実は、恥ずかしい話ながら、引越しの費用が足りねえんで、それを工面するのに、う ちでジャムセッションをやろうと思いまして。大勢客を呼んで、いろんなバンドマンが3日間、入れ替わり立 ち替わりマラソンで演奏するんですが。血の気の多い連中なんで、興奮して何をしでかすか 分からないし、それに客も、飲み放題ってことにしてるんで、グデングデンに酔っぱらって、なかにはお 宅に飛び込む奴がいるかもしれないし。つきましては申し訳ありませんが、3日間、家を 締め切ってお宅から出ないようにして頂きたい、というお願いにあがったんで」
「ほう、マラソンジャムセッション?いいじゃないか、あたしゃそんなの大好きだ、日本 ジャズ界発展のために、やるがいいや、大いにやりな!あたしゃ止めやしないよ。 けどねバンマス、お互い知らない同士でもあるまいし、どうして俺んとこに相談に来ねえ んだ。これこれこういう訳で金が入り用だって言やぁ、及ばずながら力になろうじゃないか。 いったい、いくらあったら引っ越せるんだ」
「えー、ざっと50万円ばかりありゃ、なんとか」
「ふーん、50万か。おい、手文庫をこっちへ・・・バンマス、ここに50万ある。あた しゃサラ金屋だけど、この金は商売用じゃない、あたしの金だ。これ、そっくり お前さんにあげる。なぁに、引越しのはなむけだ、返さなくていいよ。その代わりと言っちゃ なんだが、、ジャムセッションは無し、ということで、いいかい」
「え、返さなくていい?頂ける?そりゃ心苦しいが・・・そうですか、じゃ、お言葉に甘 えて、返せるあてが出来ましたらお返しする、ということで。ええ、もちろん、ジャムセッション は無しってことで。じゃ、これで失礼します」
「ああ。お前さんも達者でな・・・・・おいおい、バンマス、ちょっと待ちな」
「・・・え、なんでしょうか」
「いや、実はさっき、ドラムの先生も引っ越すって言って来たんだが。お前さん、どこに 引っ越すんだい?」
「ああ、それなら、ドラムの先生があたしの所に引っ越して、あたしがドラムの先生 の所に引っ越すんです」