論文「バンドマン属」についての考察(下)


                論文「バンドマン属」についての考察(下)


【 2.行動パターンから見るバンドマン属の特性 】
前回はバンドマン属の各「種」別にその特性を検証した。ところで、彼らが生業とする演奏 業務に対してその対価を支払おうとする業界は、ほとんどが夜間に営業する。そのためバン ドマン属のほぼ全てが夜行性である。
そこで今度は、バンドマン属全体に共通して見られる「夜行性」という行動パターンを検証する ことで、バンドマン属の特性を探ることにする。

1.バンドマン属が行動する夜間の場所
まず、バンドマン属が行動する夜間の場所を個々に検証してみよう。
(イ)キャバレー
一般大衆をターゲットにした大型の享楽施設。数十のボックス席、ダンスフロア、スタン ドバーなどがあり、その規模に応じた人数のホステスさんが従事し、そのほかにボーイ、 コック、ボイラーマンなどが業務に携わる。遊興には数千円のセット料金という基本料に 加えチャージ料、ホステス指名料などが発生する。
内部の一角にバンドステージが設けられていて、そこで専属のバンドが演奏を行う。 バンドは2組あることが多く、数十分毎に交代しながら演奏する。両方ともビッグバンド、 もしくは片方がスモールバンドで、互いに「タイバン」と呼び合う。
業務開始の夕方6時ごろの客がいない時間帯はジャズを中心に演奏し、客が入ると一般受 けする曲やダンス曲を演奏する。途中、歌謡ショーやダンスショーのステージもあり、楽 譜をすぐステージで演奏出来る「初見」の技術が必要とされる。
一つのバンドに長期に在籍し、かつ給料制なので、演奏技術の向上、生活の安定 が図れる。その反面、ジャズ以外の安易な曲の演奏による向上心の低下、休憩時間中のギャンブルに よる生活の荒廃も否めない。
※なお、キャバレーは、擬似恋愛体験を主目的とする「キャバクラ」とは一線を画すもの であることを言い加えておく。
(ロ)クラブ
キャバレーと営業形態は類似するが、規模が小さく、対象とする客層や料金も高めで、バ ンドマン属もそれに対応した演奏が求められる。バンド形態もスモールバンド、もしくは ピアノソロなどの小規模に限られる。客席と演奏ステージの距離が近く、そのことが「客との人間関 係の距離」に及ぶこともある。
(ハ)ホテルのラウンジなど
ホテルの中にあるバーやレストランで、その場に合った雰囲気を醸し出す音楽を、ビアノソ ロやピアノと管楽器のデュエットなどで演奏する。ホテル側にとって「音楽は添え物」で あり、そのため演奏する曲はいわゆる「シャンパンミュージック」と呼ばれる当たり障り のないものが好まれる。演奏単価は低く、また長期契約されることもまれで、安定収入を 得るための場とはなり得ない。
(ニ)ライブハウス
一般的には客席数が10〜30席程度で、提供する飲食物の代金と、バンドの演奏時に徴収するライブチ ャージが収入源という、ナマの音楽提供を伴う小規模な店舗。ライブチャージのうち、客数に応じた幾 分かがバンドマン属の取り分であり、よって確定的な収入は見込めず、生活の糧を得る場所 としては不適切である。そのため、ここではバンドマン属は、演奏技術やポリシーを発揮して、自らの 音楽的存在をアピールすることを主目的として活動する。

(2)夜行性の行動パターンに起因する特性
人間の体内時計は太陽を基準として作動している。とするならば、バンドマン属の夜行性 行動パターンは人間の自然な行動に反するものであり、当然それは、バンドマン属の 身体面、精神面の特性に大きく影響していることは間違いない。次に、それによって生じる特性を検証する。
(イ)身体的虚弱
バンドマン属が夜間の演奏活動を終えた後に、自宅または飲食店で、深夜もしくは明け方まで飲食をする 姿を多々見かける。そのためバンドマン属の多くは肝臓、心臓、腸な どに慢性的疲労を抱えている。また、翌日昼遅くまで就寝しているため戸外で運動す ることも無い。そのため、バンドマン属のほとんどは身体的に虚弱である。
(ロ)精神的虚弱
バンドマン属に対する演奏の対価は、価格の優等生である卵と同様、昭和40年ごろ以降、 ある基準から上昇していない。そのため、物価上昇や金利ゼロなどの一般世間の経済情勢 についていけず、世間とかけ離れた生活を余儀なくされている。そのことが及ぼす 精神的な圧迫は想像を超えるものがあり、よってバンドマン属はすべからく精神的に虚弱である。
(ハ)反発的な特性からくる影響
自身の音楽性を発揮するため、バンドマン属は自分の主張を通そうと試み、自分の主張を 否定するものに対しては強く反発する。つまり「反発的」なのであるが、それが「反抗的」 と取られることが往々にして発生する。このことが、バンドマン属の中での孤立、ひいて は一般世間との隔絶、という悲惨な状況を生み出している。しかし、それを修正してまで自らの 主張を曲げようとしないのがバンドマン属の特性であり、それがバンドマン属絶滅への道に つながる要因ともなっている。


< あとがき >
以上、バンドマン属の特性について検証してみた。
バンドマン属が、序文で述べたごとく同じ絶滅危惧種である「落語家」属と同様に今世紀中に地球上から 姿を消してしまうかどうかは、今後のさらなる検証を待たねばならない。
しかし、この論文で検証したことを手がかりとして、バンドマン属自らが行動を起こし、また何らかの手段 を講じさえすれば、バンドマン属絶滅への道のりは幾分たりとも遠のく、ということが、おぼろげながらも判明したと 確信して、この論文を締めくくることとする。


※なお、この論文の内容に関する抗議や反論は、一切受け付けない旨ご了承ください。