バンドマン風漫才「常識破りのパフォーマンス」

             バンドマン風漫才「常識破りのパフォーマンス」


A「しかし、よう降るな〜、うっとうしい天気やな〜」
B「なにブツブツゆうてんねん。しゃあないやろ、梅雨なんやさかい」
A「そないゆうかて、客は来ぃひんし、店はヒマやし。バンドもダレるがな」
B「そないなことゆうてるさかい、ダレるんやないか。そないなときは、ステージで、な んかパーッとハデなことしてみ。少しは気がまぎれるかもしれんで」
A「ハデなこと、ゆうと?」
B「そやな、ま、言や、常識では考えられんようなパフォーマンス、とかやな」
A「そしたら梅雨が明けんのんか?」
B「アホか。パフォーマンスで梅雨が明けるかいな。梅雨は明けんけども、客もバンドも、少しは 気が晴れるやろ、ゆうてんねゃ」
A「ははあ、天が晴れんと、気ぃが晴れんのやな。そういや、こないだテレビ見てたら、額 でピアニカ弾いてる芸人がいてたで」
B「ああ、あれは、たいていは『寅さんのテーマと』か『上を向いて歩こう』とかの、ペ ンタトニック(5音音階)の曲を弾いてはんねや。それやと、額に当てやすい黒鍵だけで 演奏でけるさかいな」
A「へー、そうなんや。ほな、なんぞ考えてみよか・・・どや、こんなん」
B「どんなんや」
A「あんな、ピアノて、いつも客に背ぇ向けて弾いてるやろ。それを、体は客の方向けて後 ろ手でピアノ弾く、ゆうんは」
B「アカン」
A「アカン?新しすぎるか」
B「何が新しすぎるやアホ。そんなパフォーマンス、何百年も前にモーツアルトはんがや ってはるがな。それどころか、仰向けになって後ろ手で弾いたゆう話や。そんなんやのうて、 もっと常識破りのこと考えな」
A「常識破りてか。ほな、ベース・・・本物のベースの代わりに、バケツとモップの柄 でベース作って弾いてみたらどうやろ、見た目、おもしろいんちゃうか」
B「なんも知らんガキゃなあ。ジャズの創世記のころて、黒人はそうやってベース作っと ったんやし、今も、そんな手作り楽器の全国大会があるぐらいや。そんなんちっとも目新し ことあらへん!」
A「そないガミガミ言いなや、知らんもんしゃーないやろ。ほな、ドラム・・・バスドラ ムを、一つやのうて二つ置いて、両足で叩く」
B「そんなん、とうの昔に、ジョージ川口はんがやってはるやろ」
A「そやったな。そういえばあの人、キャバレーに来はったとき、スティックで床叩きな がらステージの真ん中まで出て来て、『お呼びでない?こりゃまた失礼しました〜』みたい なパフォーマンスしてはったな、懐かしいー。ほな、サックス・・・一人で2本吹く、ゆうんは?」
B「あんな、バンドでは二つ以上の楽器をこなすモンをダブラーとかマルチプレーヤーゆ うてやな・・・」
A「いや、そやのうて、いっぺんに何本かまとめて同時に吹くんやがな」
B「それもローランド・カークゆう人が、とうの昔にやってはるし、サックス吹きなら誰 でもいっぺんは思いつくことや。それが証拠に、インターネットで調べてみ。そんなん山 ほど出てきよる」
A「アカンか。ほな今度はトロンボーン・・・スライドを、逆の手の左手で・・・」
B「スライド・ハンプトンゆう人は、それが当たり前で吹いてはる」
A「早いな。いくら自分がトロンボーン吹きやゆうたかて、そないせかさんでも・・・ほ な、こんなんどないや。2本のトロンボーンのスライドを、上に向けて互いに交差させて やな」
B「1番奏者のスライドに2番奏者のスライドを交差させ、その2番のスライドに3番、 3番に4番、ゆうぐあいに全部のスライドを交差させて、そのままスライドを動かして演奏する、ゆう んを見たときは、ホンマ、ビックリしたなー」
A「そない先回りしいなや。そんなことも、もう誰かがやってはんねんな。ほな、スライ ドだけで吹く、ゆうんは」
B「ベルの部分を外して、代わりにコップを当てて吹くゆうんは、トロンボーン奏者には よう知れたるパフォーマンスや」
A「アカンか・・・そや、客にスライドの先持たせて、自分の方が体を動かして吹く、ゆうんは」
B「そんなん、ニュースカイラークのトロンボーンが、とうの昔にやってるわ」
A「アホなことしてんねんなー!ほな、この際や、バンマスにステージで倒れてもらおか。 みんながビックリして大騒ぎしたとこで、起き上がって『ウソや〜』」
B「そんなん、ドイツのカーゲルゆう作曲家の曲にやな、『演奏途中で指揮者が仰向けに倒 れる』、ゆう指示の書いてある『フィナーレ』ゆう曲があんねん」
A「そんなんまで、もうあんの!常識破るてホンマ難しいな。ほな、どないせいゆうねん」
B「そやからな、そないなアホみたいなことせんと、バンドマンはバンドマンらしく、正々 堂々、プレイで勝負したらええんや」
A「・・・そらナニゆうねん!最初に、なんかパフォーマンス考えー、ゆうたんは、君やで」
B「ハハハ、退屈しのぎにゆうたんやが、しかし、よう降るなー、ホンマうっとうしい」
A「君のほうがよっぽどうっとうしいわ。も、ええかげんにしなさい」