バンドマン的落語「ん廻し」

                    バンドマン的落語「ん廻し」


えー、梅雨明けまでにはまだ間があるってえのに、だんだん暑くなってまいりました。今年もそろそろ熱中症に気 を付けないといけない時期なんですが、あんまり水分を取り過ぎると水中毒、塩分を取り過ぎる と高血圧、栄養補給に食べ過ぎると肥満症、なんてんで、まあ、何事もほどほどがいいん でしょうが。
そんな暑い中、バンド部屋でBM(バンドマスター)、Tp(トランペット)、Tb(トロ ンボーン)、Sx(サックス)、Pf(ピアノ)、Bs(ベース)、Dm(ドラム)なんてバ ンドマンが寄ると、どうしても「暑気払い」ってんで、飲む話になるようで・・・。

BM:「あのさ、面倒くさかったショーバン(ショーの伴奏)も終わったことだし、今日は 暑気払いをかねて、持ち寄りで飲もうと思うんだけど、どうかな」
Tb:「そりゃかまわないですけど、ケーサ(酒)はどうすんですか」
BM:「酒は大丈夫、ビーナカ(中日=差し入れ)で貰ったやつがあるから。つまみもミセ (店=勤めているキャバレーなど)のを貰ってくるけど、でも、ちょっと腹にたまるよう なものが欲しいんだけどな」
Sx:「ああ、それなら、隣りのたこ焼き屋でたこ焼きを買って来るってのは、どうです?」
BM:「ああ、たこ焼きだったら、みんなでいっしょに食べられるな、じゃ、おいボーヤ(見 習いバンドマン)、この金で買って来てくれ」

ってんで、買いに行きまして、しばらくして、山ほどたこ焼きを買って来たんで、

BM:「おい、こんなにいっぱい、どうしたんだ。え、一万円分、全部買って来た?人数分 でよかったのに、まったく。・・・そうだな、じゃこれを食べるのに、何か『ん』の付く言 葉を言ったら、たこ焼き一個、ってのはどうだ」
Tp:「『ん』の付く言葉を言う、ってえと?」
BM:「なんでもいいんだよ、『ん』が付けば。たとえば、お前の楽器はなんだ?」
Tp:「やだなあ、トランペットじゃないっすか」
BM:「ほら、トランペットで『ん』があるだろ。おいボーヤ、こいつにたこ焼き1個やっ てくれ」
Tb:「ああ、そんなんでいいんすか、じゃ、私は『トロンボーン』で2個」
BM:「おい、こっちにたこ焼き2個だ」
Sx1:「へー、じゃ私は、アルトン・サックスン、で2個」
BM:「なんだ、そりゃ。そんなデタラメはだめだ」
Sx2:「アホやなあ、バリトン・サクソフォン、て言えばいいのに。はい、2個ちょうだ い」
Sx1:「アホとはなんだ、自分はテナーサックスのくせに。おい、1個よこせ」
BM:「こらこら、サックス同士でもめるんじゃない」
Pf:「バンマス、私は、ピアノの王様スタンウェイ・アンド・サンズで、3個」
BM:「うちのはヤマハだけどな。おい、こっちに3個。次は、ベースか」
Bs:「えーっとですね、ロン・カーター、ポール・チェンバース、レイ・ブラウン、チャ ールス・ミンガス、で、4個」
BM:「今度はプレーヤーできたか。だんだん増えていくな。ほかには、ほい、アホのアル ト・サックス」
Bs:「アホはひでえな。えーっと、三大ビッグバンド、デューク・エリントン、カウント・ ベーシー、スタンケントン、てのはどうです」
BM:「ほう、汚名返上だな・・・えっと、7個か、いっぺんに増えたな。ほい、次は」
Tp:「えーっと、曇天お天気、好転晴天、安全運転、阪神応援」
BM:「なんだ、そりゃ?」
Tp:「あのね、先週、プロ野球の応援でラッパを吹いてくれって頼まれたんですわ。曇天 のお天気だったのが、好転して晴天になって、安全運転で甲子園球場に着いて、阪神を応 援した」
BM:「そういうことか、で。幾つだ?12個?ずい分持っていったな。ほかは」
Tb:「よーく聞いてくださいよ、えーっと・・隣人担任、奥さん妊娠、奇人変人、バンド で変身、ステージ暗転、全身鳥人、フロントメンバー金管三管、全員凡人、音感バツグン」
BM:「なんだそりゃ、わけが分からんこと言って。全部デタラメだろ」
Tb:「とんでもない、いいっスか。隣りの人ってのがドモコ(子供)の学校の担任で、奥 さんは妊娠中。先生なのに奇人で変人で、バンドやってて変身する、それが、ステージが 暗転すると、全身が鳥人という格好で出て来るんです。フロントメンバーは金管楽器の三 管編成で、全員凡人なんだけど、音感はバツグンにいい」
BM:「よくそんなのを思いついたな、もう一度言ってみろ」
Tb:「いいですよ。隣人担任、奥さん妊娠、奇人変人、バンドで変身、ステージ暗転、全 身鳥人、フロントメンバー金管三管、全員凡人、音感バツグン」
BM:「んー、で、幾つなんだ?りんじんたんにん、おくさんにんしん・・・すごいな、3 1だ、おい、こいつに31個やってくれ。おや、ドラム、あんたもやるかい」
Dm:「ああ。いいか、誰か間違えないようにちゃんと数えてくれよ。まず、ライドシンバ ルを、シャンシャンシャンシャン、バスドラムをドンドンドンドン、と8つだ」
BM:「おやおや、それから?」
Dm:「次に、タムタムをデンデンデンデン、トントントントン、カウベルをカンカンカン カン、コンコンコンコン、スネアドラムをザンザンザンザン、クラッシュシンバルをジャ ンジャンジャンジャン、おまけにもひとつジャーン、ジャーン、ジャーン、ジャーーーー ン!、と。どうだ!」
BM:「うるさいな!残念だが、たこ焼きは無しだ」
Dm:「え、どうして?」
BM:「耳にいっぱい『たこ』が出来た」