熊さん流・ジャズ勉強法「熊さんミュートにあこがれる」


            熊さん流・ジャズ勉強法「熊さんミュートにあこがれる」


熊:「大家さん、ちょっと貸してもらいてえモンがあるんだが・・・」
大:「おや、熊さんか、久しぶりだな。ま、上がんな。そりゃ、うちにあるもんなら、貸し てやってもいいが、何が要るんだ?」
熊:「それが、ちょっと言いづらいんだが、その、ブラジャーを貸してもらいてぇ・・・」
大:「おいおい、昼間から寝ぼけてんじゃないよ。なんで俺んとこにそんなもんを借りに来る んだ。しかし、知らなかったなー、熊さんってのは、そっち系の趣味があったのかい」
熊:「そっち系ってどっち系だよ。そうじゃなくて、ほら、トランペットとかトロンボーン がやってるだろ、ホンワカ、ホンワカ、ってやる、あのブラジャー」
大:「ホンワカ、ホンワカ?って、そりゃ、プランジャーミュートのことか?」
熊:「そうそう、その、ブラジャーミュート」
大:「ブラジャーじゃない、プランジャー(plunger)だ。プランジャーってのは、ピスト ンの中で行き来する部品とか、トイレのスッポン、地域によってはトイレのカッポン、を 指したり、それから金管楽器、特にトランペット、トロンボーンがベルの前で開閉して使 うミュートのことを指すんだ。メーカー品だと結構いい値段がするんで、最近は100円 ショップの、それこそトイレのスッポンを使う人が増えているな」
熊:「へー、プランジャーってのかい。俺ぁてっきり、ブラジャーの片方でやってるのかと 思ってた」
大:「どこの世界に、ブラジャーでホンワカってやるやつがいるんだ。あ、トイレのスッポ ンなら、今使ってるやつでいいなら、貸してやるぞ」
熊:「いらねえよ!100円なら、自分で買ってくらあ」
大:「しかし、熊さんはサックスだろ、プランジャーミュートをどうするんだ?」
熊:「どうするって、かっこよさそうだから、今度の演奏会で使うんだよ」
大:「おい熊さん、プランジャーミュートってのは、片手でベルを塞いだり開いたりして操 作するんだ。片手を使っちまったら、演奏はどうするんだ」
熊:「・・・あ、なーる」
大:「なにが、なーるだ。だいいち、金管楽器と木管楽器では、音の鳴るしくみが違うから、 木管楽器ではミュートの効果は薄いんだ」
熊:「だったらサックスは金管楽器だから、いいんじゃねえか」
大:「おいおい、熊さんは、自分の楽器が金管楽器だと思ってるのか」
熊:「え、だってサックスは金属で出来てるから金管楽器だろ、違うのかい、おい、おっさ ん」
「誰がおっさんだ。そうじゃなくて、
<金管楽器>
・唇を震わせて鳴らす
・ピストンやスライドで管の長さを変えて音程を作る
<木管楽器>
・葦片などを震わせたり、管の中の空気(気柱)を直接震わせて鳴らす
・管の途中に開けた音孔(トーンホール)を指で開閉して音程を作る
そう分類されるんだ。で、木管楽器の場合は、トーンホールがあるために、音はそこから 出て行くから、ベルを開閉しても音色の変化は薄いんだ。フルートなんて、ベルそのもの もないだろ」
熊:「そういや、サックスも、年末の道路工事だな」
大:「なんだ、そりゃ」
熊:「いたるところ、穴だらけ」
大:「くだらねえ。で、金管楽器のほうは音の出て行く場所が先端のベルの部分だけだから、 そこを塞ぐことで、弱音効果があったり、音色が変わったりするわけだ」
熊:「ははあ、そこだな」
大:「えー、どこだい」
熊:「探すんじゃない、って、大家さんがボケやっちゃ困るな。それで、サックスなんかに はミュートがないわけか。だから、練習の時に音が小さく出来なくて困るんだよな」
大:「たしかにそうだな。しかし、ミュートってのは、ステージでは弱音効果より、音色の 変化を目的に使うことが多くて、プランジャーミュート以外にも、いろんな種類のミュートがある」
熊:「へー、どんなのがあんです」
「そうだな、
・ストレートミュート・・・円錐形のミュートで鋭い音質。最も一般的でショクナイには必須
・カップミュート・・・ストレートの先にお椀をつけたような形、柔らかい音質
・バケットミュート・・・爪でベルに外付けするバケツ型のミュート。ベルベットとも呼ばれる
・ワウワウミュート・・・ハーマン社のものが有名でハーマンミュートともいう。丸型に近い形で
            こもった音がする。芯の筒を外すと鋭く金属的な音色になりチッチ(チー
            チー)ミュートとも呼ばれる
・ソロトーンミュート・・・ストレートミュートを二段重ねにしたような形。柔らかい音質で、その
            名のとおりソロで使うと効果的
・ハットミュート・・・帽子型のミュート。スタンドに備え付けておいてベルをその方に向けて演奏
           したり、手に持って開閉して使う
・イン・スタンド・・・ミュート器具ではないが、ベルをスタンド(譜面台)の中に向けて演奏する
           という指示
熊:「へー、いろいろあるんだね。金管楽器奏者ってのは、これをみんな持ってるのかい」
大:「最近の人はわからないが、キャバレーのバンドマンは、楽譜にどんな指示があるかわ からないから、たいていは持ってたな」
熊:「へー、しかし、ミュートで音が変えられて、金管奏者ってのはいい思いしてるな」
大:「そうとばかりも言えない。
・差込型のミュートはピッチ(音程)が高くなり、外付型は逆に低くなってしまう
・ミュートに付いているコルクの摩擦だけで取り付けているから、演奏途中に外れやすい
・プランジャーミュートの場合、開閉操作のために演奏が不安定になってしまう
という苦労もある。しかし、確かに、楽器の音色そのものも大事だが、たまにミュートで音色に変化 をつけるというのも、演奏のアクセントになるな」
熊:「あ、大家さん、両手で演奏しながら、もう一本の手でプランジャーを操作出来るサッ クスプレーヤーがいるよ」
「そんな、手が三本もある、お化けみたいなプレーヤーがいるか」
「いるじゃねえか、手(デ)ビッド・三本(サンボーン)」



注) デビッド・サンボーンはジャズ、フュージョン界で活躍する有名なサックス・プレーヤ ーです。