もうかなり昔のことになるが、歌伴の職内に行ったときのこと。
いよいよ仕事も終わってフメン台を片付けようとしたとき、隣のラッパが
「あーあ、終わった終わった」と言いながらフメン台をけ飛ばした。
このフメン台というのは、ダンボール製で、コの字型の本体の上に天板が乗っていて、
中にも楽譜をストックしておく中棚がある、あれである。
何をするんだコイツ、と思った瞬間、天板はフワッと舞い上がり、中棚の留めがはずれ、
本体がゆっくりと向こうに倒れ、天板が間にはさまって、フメン台は見事、
折りたたんで片付ける状態におさまっていた。
一瞬何が起きたかわからなかったが、ちょっと間があって、ああ、あれは畳む行為だったんだ
と気がついた。まわりの者はびっくりした風でもなく、自分のフメン台を手で丁寧に畳んでいる
ところを見ると、いつものことなのだろう。が、初めて見た者にとっては、手品でも見たような
気分だった。
あれからずいぶん年数が流れたが、け飛ばすという荒っぽい行為と、きれいに畳まれている
という結果のアンバランスに起きた奇妙な感情と、いろんな名人(?)がいるもんだ、
と感心したことを、いまでも時々思い出す。
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