<熊さん流・ジャズの練習法(ライブの心得)>


大:「おい、熊、いるか」
熊:「おや、お珍しい。大家さんのほうからお越し下さるなんざ、今世紀始まって以来じゃ ねえか。もっとも、今世紀はまだ8年しかたってねえが。なんですかい、家賃の払い戻し、 かなんかで」
大:「ここ半年払ってないくせに、生意気言うんじゃない。それよか、長屋の掲示板に 貼ってあった、これはなんだ」
熊:「これ?って、こいつぁ俺が作った『熊さんジャズライブ』のポスターじゃねえか。勝手 に剥がしてもらっちゃ困るなー。これがどうかしたんで」
大:「どうかってしたって、この中味だが・・」

【第一回・熊さんジャズライブ】
場 所:大家さんち(ボロ家だけど勘弁してくんな)
入場料:タダ(その代わり、ご祝儀とお酒を持ってくること、花束は食えないのでお断り)
<長屋の住人全員揃って来ること、但し、犬・猫お断り>

大:「なんだ、こりゃ」
熊:「ああ、それか。いやね、花より団子で、花束なんぞ貰ってもつまらねえと、思ったん だが、なにかね、やっぱり花束も貰ったほうがいいかな」
大:「なにを言ってるんだ。そうじゃなくて、『大家さんち』ってのは、どういうことだ」
熊:「ああ、そっちか。そいつは、大家さんも婆さんと二人で寂しかろうから、ライブの プレゼントをしようという、思いやりだ。ま、遠慮するねえ」
大:「大いに遠慮すらぁ、勝手に人んちをライブ会場にするんじゃない。だいいち、ジ ャズライブ、ってえが、何をやるつもりだ」
熊:「何って、そりゃあ・・・あれ、そういや、何をやるか考えてねえや。ハハハ、こいつぁ 面白れえ」
大:「あきれた奴だ。ま、積極的にやるのはいいとしても、やるからには、何の為にやるか ぐらいは考えておかないと」
熊:「おやー、また頭の痛くなるような説教をするつもりだな、この『離さんかジジイ』」
大:「なんだ?その『離さんかジジイ』ってのは」
熊:「説教を始めると、なかなか離してくれねえから、『離さんか、ジジイ』ってんだ」
大:「くだらねえこと言ってやがる。ところで熊さん、いわゆる音楽の三要素ってのは何だ」
熊:「なんだよ、急に。えーと確か、リズム、メロディー、ハーモニー、だったかな」
大:「そうだ。そいつを自分なりに表現して、その場で聴いてもらうのが、ジャズライブだ」
熊:「ほーら、そろそろ説教が始まるぞ。じゃ、リズム、ってえと?」
大:「これはジャズの根っこの部分だ。ワクワクするようなリズム、心をしっとりさせるリズ ム、情熱的なリズムなど、ジャズはリズムを楽しむ音楽でもある。それをどう表現するか」
熊:「ふーん。次の、メロディーは?」
大:「曲の、元のメロディー、それを少しくずしたフェイク、コードをもとに紡ぎ出すアド リブ、それらを、自分の感性と技術でどう表現するか」
熊:「じゃ最後の、ハーモニーは?」
大:「ジャズ特有の音の積み重ねを使い、いかに個性的でジャズらしいサウンドを表現する か、だ。そして、この三つの要素を組み合わせて、いかに自分自身の表現を生み出すか、 それがジャズを演奏する、ってことだ」
熊:「またシチ面倒くせえこと言ってやがら。じゃ何かい、それが出来ねえと、ライブ はやっちゃいけねえ、ってのか。おう、どうなんでい」
大:「そうじゃない。最初は誰だって初心者だ。何回も失敗やら、挫折を繰り返して上手く なっていくんだ。要は、ただ漫然とやるんじゃなくて、そういうことを意識してライブをやれ、 ということだ」
熊:「へー、そういうもんかね。俺ぁ、音階練習でもやろうかと思ってたんだが」
大:「大馬鹿野郎。それに、熊さんのライブのせいで、長屋の方が出て行ってみろ、迷惑するの はこっちだ」
熊:「ふーん。じゃ、今回は大家さんの顔を立てて、ライブは止めにするか」
大:「いや、せっかくポスターも作ったんだし、中味をちょっと書き換えるなら、やってもいい」
熊:「へーそうかい。で、どう書き換えるんで?」
大:「犬・猫“以外”お断り」