オセロ風漫才「孔子に学ぶジャズの極意」

黒:「ん、どないしたん、元気ないな」
白:「最近、悩んでんねん」
黒:「へー、あんたでも悩むことがあんねんな」
白:「人をロボットみたいに言わんといてぇ。あたしかて、悩むことあるがな」
黒:「ロボット!?ロボットは、あんたよりもっと頭ええと思うけど。で、何、悩んでんの」
白:「考えたら長いことジャズやってるけど、ちっとも上手にならんな〜、思て」
黒:「なんや、そんなことかいな。そやなー、昔から、温故知新、ゆうやない」
白:「落っこちて死んだ?」
黒:「どないな耳してんの、あんたの耳。温故知新、つまり、昔のひとのゆうことに耳を 傾けなさい、ゆうことやねん。あんた、孔子て、知ってるやろ」
白:「コウシ?バカにせんといて、なんぼあたしかて、コウシぐらい知ってるがな、戸とかについてる、 細い木ぃででけた・・」
黒:「それは格子やろ。そうやのうて、昔の中国の偉い人」
白:「あ〜、学校で習ろた覚え、あるある。昔々中国にモー牛と子牛がおりました、やろ」
黒:「あんた、それでよう卒業でけたな。その孔子はんが言わはったんや」
白:「なんて」

吾、十有五にして学に志す
三十にして立つ
四十にして惑わず
五十にして天命を知り
六十にして耳順(みみしたが)い
七十にして心の欲する所に従って矩(のり)を踰(こ)えず

白:「あ、今の中国語、なんとのぉ解ったでぇ!」
黒:「中国語ちゃうやろ、れっきとした日本語やーゆうねん」
白:「そうかぁ?中国語にも聞こえたけどなー。で、なんてゆうてはんの」
黒:「つまりやな、まず、15歳でジャズを志すようになった、ゆうてはんねん」
白:「ませとったんやなー、15でもうジャズやろー思いはったん」
黒:「せや」
白:「それから?」
黒:「30にして立つ」
白:「立つ、やなんて、あんた、女のくせに、よお平気でゆえるなー。お嫁に行かれへんで、ホンマ。でも、 30で立つやなんて、少し遅いんとちゃう、だいたい男のひとて」
黒:「あんたこそ何考えてんの!立つ、つまり、自立してバンド組んだ、ゆうてはんねん」
白:「ああびっくりしたぁ。せやろな、あやうくセーフ。それから」
黒:「40にして惑わず」
白:「40にして窓わく?」
黒:「おーい、耳起きてるかー。惑わずや。40になったら、自分のジャズに迷いが無くなった、 ゆうてはんの」
白:「ふーん、ほんでもって、50は?」
黒:「50にして天命を知る」
白:「そんなもん、あたしかて知ってるがな、加納テンメイさんゆうたら、有名な写真家さんや」
黒:「ちゃうやろ。天命、つまり、自分にとってジャズは天命と悟った、ゆうてはんねん」
白:「老い先短こなって、やっと気ぃつかはったん。哀れなこっちゃなぁ」
黒:「あんたに言われたないわ。で、60が、耳順(みみしたが)い」
白:「耳が痛い?」
黒:「こっちは頭が痛いわ。耳が従う、心が従順になった、つまり、いろんなジャズが、 素直に自分のものになるようになった、ゆうてはんの」
白:「それが耳が順う、なん。ふーん。でもって、70は」
黒:「心の欲するところに従って規(のり)を踰(こ)えず」
白:「わかった!女風呂〜、覗きたいとは思えども〜、塀が高すぎて乗り越えられへんかった〜、 字あまり〜」
黒:「あんたちょっと黙っとき。規、ゆうんは、決まりごと。つまり、どんなに思うままにアドリブ しても、それがちょっとも変やない、そんな演奏がでけるようになった。つまり、やっと70になって ジャズの極意を習得した、ゆうてはんの。そんなんに比べたら、あんたの悩みなんて、可愛らしいもんや」
白:「そうかー。ほんでも、そこまで行き着くのに70年かかんねんなー。あたしには絶対ムリやわ」
黒:「そんなもん、やってみなわからへんやろ。地道に目標立ててやってたら、 いつかは「アドリブ自由自在」、みたいになれるかもしれへんし」
白:「いや、絶対ムリやわ、あたし、70までて、生きられひんもん」
黒:「なんでやの」
白:「そやかて、昔からゆうやろ、美人薄命て」
黒:「古いオチ使こてからに、もー、いい加減にしなさい!」