熊さん流・ジャズ勉強法「熊さん音楽の効果に悩む」


            熊さん流・ジャズ勉強法「熊さん音楽の効果に悩む」

熊:大家さん、いるかい。
大:おや、熊さんか、久しぶりだな。どうしたんだ、今日は隣町のバンドの練習日じゃな かったのか。
熊:そうなんだが、今度の震災のことですっかり参っちまって、どうも楽器を吹こうって 気にならねえんで。そんなこんなで、このエッセイも、前回は休んじまったし。
大:ふーん、無神経の権化(ごんげ)、の熊さんでもそうか。
熊:無神経の権化って、いやだな大家さん、そんなに褒めちゃ。
大:誰も褒めちゃいない。が、確かに今回の震災はひどかったからな。
熊:しかしなんだね、大家さん、こうなるってえと、お金や食いモンと違って、音楽って のは何の助けにもならねえ、無力なもんだなと思ってね。それに、そんなモンに生涯をか けた自分もまた、あわれなモンだと思えて。
大:おやおや、熊さんが音楽に生涯をかけているとは知らなかったが、それにしても、ら しくもない弱気な発言だな。
熊:弱気にもなろうじゃねえか。それともなにかい、音楽がナンかの役に立ってるってえ 証拠でもあんのかい。
大:証拠って言い草があるか。ま、確かに音楽ってのは腹の足しにもならないし、物の代 わりになるわけでもない。しかし、それなりの力があるから、大昔から今まで綿々と存在 しているわけだ。熊さんが思うほどには、捨てたもんじゃない。
熊:ふーん、なんだい、その、それなりの力ってのは。
大:まず、精神的効果、次に身体的効果、それから知的効果、そんなところかな。
熊:ふーん、そんなんがあるのかい・・・で、何だっけ?
大:まず、精神的効果、これは分り易いな。気持ちが傷ついたときの癒し効果とか、元気 がないときの活力効果とか、逆に高ぶった神経を沈める精神安定効果、とかだな。
熊:ああ、慰問演奏に行ったときに「演奏を聴いて元気が出た」とか言ってもらえること があるが、そういうことかい。
大:そうそう。
熊:で、次は?
大:身体的効果。これは医療のほうで研究されているようだが、首、腰、関節に痛みがあ り治療している人に音楽を一定時間聴かせると痛みが和らいだ、という話がある。
熊:ふーん。で、もう一つは?
大:知的効果。これは分りにくいかもしれないが、以前、マウスの知能実験で、モーツア ルトを聴かせるグループ、雑音を聴かせるグループ、何も聴かせないグループに分けて迷 路を覚えさせる実験をしたところ、モーツアルトを聴かせたグループのマウスが一番成績 が良かった、という報告があったそうだ。
熊:へー、じゃ俺も、子供のころお袋がモーツアルト聴かせてくれたんだな。
大:それはないな、お前のおっかさんは落語ばかり聴いていた。
熊:ふん、大きなお世話だ。しかし、音楽にそんな効果があるんなら、確かに捨てたもん じゃねえな。じゃあ、また頑張って練習を始めることにするか。
大:ああ、ただし、闇雲に練習するんじゃ、だめだぜ。
熊:ヤミクモ?てやんでえ、練習は闇じゃなくて、いつも明るいとこでやってら。
大:そうじゃなくて、練習のための練習ではダメだ、ってことだ。
熊:またわけのわからねえ。練習は練習だろ。
大:そうじゃなくて、練習というのはあくまで本番のためにやる。つまり、さっき言った 音楽の効果を聴く人に提供する、それが最大の目的だということを忘れちゃいけない、っ てことだ。そういや、隣町のバンドの連中が言ってたぞ、熊さんはちっとも練習に来ない が、いつ練習に来るんでしょうかって。
熊:ふん、俺は地震といっしょで、それでいいんだよ。
大:ん、どういうことだ?
熊:昔から言うだろ、天才(天災)は忘れたろにやって来る。