熊さん流・ジャズ勉強法「起承転結」を学ぶ


              熊さん流・ジャズ勉強法「起承転結」を学ぶ

熊:では、大家さんに問題です。
大:おい、いきなり他人の家に上がってきて何を言ってるんだ、熊さん。
熊:それでは、問題をよく聞いてください。次の言葉は何を表しているでしょうか。
『伊藤、路上歩行、ハーモニカ、入費増加、報告、屁、特等席、地価登記、流行地、塗り 物、ルール修正す、和尚(をしょう)焼香、ワーと言う』。さあ、ファイナル・アンサー?
大:おい、待ちなってんだ。まだ、飯を食ってるってのに、せわしいやつだ。なに?伊藤、 路上歩行、ハーモニカって、そりゃ、モールス信号の覚え方だ。イトー、ロジョーホコー、 ハーモニカ、で、イ(・−)、ロ(・−・−)、ハ(−・・・)、という具合に、昔は言葉の ゴロ合わせで覚えたんだが。しかし、よくそんなのを知ってたな。
熊:ああ、コンパソのトーネツで調べた。
大:コンパソのトーネツ?なんだそりゃ?
熊:分かんねえかなぁ、パソコンのネットだよ。
大:おやおや。しかし、そのモールス信号がどうかしたのか。
熊:それなんだよ、こないだ、隣町のバンドの練習に行ったとき、バンマスってのが生意 気なツラぁしやがって、「熊さんのメロディは、まるでモールス信号だなぁ」なんて言いや がんだよ。で、とりあえず、どういたしまして、と言っといた。
大:やれやれ、それでモールス信号か、長い前置きだな。しかし、確かに、熊さんの 演奏はそうかもしれないな。
熊:いやだなぁ、大家さんまでそんなに褒めちゃ、照れるだろ。
大:褒めてんじゃない、モールス信号の音みたいに一本調子だって言ってるんだ。
熊:ふーん、一本調子ってのは、音に一本芯が通ってる、ってことか。
大:わからないやつだな、つまり、熊さんの音には、人に訴えるモノがないってことだ。
熊:へー、音ってのは、裁判みたいに訴えないといけねえのかい。そりゃ、どうすりゃい いんで。
大:そうだな、とりあえず『4小節の法則』と、『起承転結の法則』を、試してみたらどうだ。
熊:また、小難しい理屈を考えやがったな。で、その『4小節の法則』ってのは、なんだい、 おっさん。
大:おっさんてえやつがあるか。曲ってのは、4小節をひとつのかたまりとして、それ がいくつも集まって出来ていることが多い。たとえば、ジャズじゃないが、野口雨情作詞・中山晋 平作曲の『船頭小唄』って曲があるが、知ってるか。
熊:ああ、こないだ老人ホームの慰問でやってきたばかりだ。
大:この曲を例にとると、
  A 俺は/河原の/枯れスス/キ〜 (4小節)
  A’ 同じ/お前も/枯れスス/キ〜 (4小節)
  B どうせ/二人は/この世で/は〜 (4小節)
  A’ 花の/咲かない/枯れスス/キ〜 (4小節)
という構成で出来ている。
まず、この4小節の中で表情を付ける、これが『4小節の法則』だ。
熊:ふーん。で、その表情を付けるってのは、どうすんだ。
大:一般的には、1、2小節で少しずつ気分を膨らませ、3、4小節で収束させる。つま り、『俺は/河原の』で盛り上げ、『枯れすす/き』で元に戻す、ってえ具合だ。ただし、 聴く人に悟られないようにやる、そこが肝心だ。
熊:悟られないように?まるで泥棒だな。じゃ『起承転結の法則』ってのは?
大:今度は、4小節のグループの、A・A’ ・B・A’を、起・承・転・結、に当てはめて、
  A ・・・始まりの感じ
  A’ ・・それを少し発展させた感じ
  B ・・Aを受け雰囲気が変わった感じ
  A’ ・・全体をまとめて終わる感じ
こうやって、抑揚とメリハリを付けて、曲全体の雰囲気を作るようにする。
こんな具合に、『4小節の法則』と、『起承転結の法則』を組み合わせて演奏すりゃ、少し は、モールス信号って言われないようになる、かもしれないな。
熊:かも?鴨とかアヒルじゃ困るんだよ、お兄さま。
大:なにがお兄さまだ。というのは、それが見え見えだと「あざとい」と言われるし、 大げさ過ぎると、悪い意味で「サイクー」、つまり「臭い」演奏になって逆効果だ。それに、 どんな曲にもこの法則が当てはまるってえわけじゃない。要は、いかにして、その曲の雰囲 気をつかみ、表現をコントロールするか、それを意識して練習することが大切だ、ってこ とだな。わかったら、さっさと練習してこい。

大:おや、熊さん、今日は練習日じゃなかったのか。
熊:それが、大家さんの言う通りにやって、腰が痛くて、今日は休みだ。
大:私の言った通りにやって腰が痛い?そりゃ、どういうことだ。
熊:なにね、昨日酔ってソファで寝ちまって、起きたときに、尻から転んだんだ。
大:だから?
熊:わかんねえかなー、つまり、『起床、転、ケツ』だ。