えー、一席お付き合いを願いますが・・・。
今の世の中、えらい不景気で、なんて言いましたっけ、そうそう、サブプライムローンと
かで。それで、みんな、寒(サブ)!って、言ってんですかね・・・スミマセン。
で、バンドマンってのは、そう楽な商売じゃないんですが、元々が貧乏ですから、さのみ感じな
いようで。それか、何とかは風邪を引かない、ってえますから、それで寒さを感じないのかも・・・。
業界では見習いのバンドマンをボーヤってえますが、そういう商売ですから、ちょっと足
りないボーヤがバンドにいて、しょっちゅう、バンバス(バンドマスター、バンドの責任
者)に怒られたりしてて・・・。
「おいボーヤ、今日のカンバンが打ち合わせに来たら呼びに来いって言ってたのに。
カンバン、来なかったのか」
「バンマス、そう言うけどね、あたいがここにいるあいだはね、誰も来なかったよ」
「そうか?おかしいな」
「ん、誰も看板なんか持って来なかったよ。そのかわり、綺麗な女の人がね、『バンマスい
る〜』って、覗きにきた」
「馬鹿、それがカンバンだ。メインの歌手のことだろが、まったく。しゃあねえや、
俺、ヒーコー(珈琲)に行って来るから、また来たら、ちゃんと呼びに来るんだぞ、いいか」
「ハハハ、バンマス走って行っちゃった。あ、誰か来た。あのー、どなたです?」
「わて、今日の歌手のマネージャーだす。途中で歌うジャズのメモリー(楽譜なしの即興)
の曲のことやけど、バンマスいてはりまっか」
「バンマス?は、えーっと、いま非行に走ってった」
「非行に走った!?なんや、わけのわからんバンマスやな。ほな、お伝え願えますか」
「ふーん。じゃ、しゃべってみろ」
「(けったいな若い衆やな)。
歌う曲のキー、ジー(G)ゆうてましたけど、キーが違ごてましたんで、シー(C)のキーでお願
いします。アタマ(冒頭部分)、ヤノピ(ピアノ)でボロンと音ください。ルバートでエー
エービーエー(AABA=32小節の曲の形式の名称)のエーいったら、手ぇ振りまっさ
かい、次のエーからインテンポ(一定の演奏速度)で。
ワンコーラス(曲の一通り)いったら、タイコ(ドラム)
のオカズ(短い間奏)で、次のワンコーラスはインスト(インストルメント=楽器演奏)
でお願いします。ラッパ(トランペット)のメロ(メロディー)に、ボントロ(トロンボ
ーン)とクラ(クラリネット)にからんでもろて、シーデキ(デキシーランドジャズ)風
にやってもらうとええんやが。プランジャー(ミュートの一種)使こてもらうのもええで
んな。
そのあと、サビ(曲の中の転換部分)から歌出まっさかい、そこからバンドさん、チータ
(立奏)でやってもろて、ケツ(曲の終りの部分)はAトレン(テイク・ジ・Aトレイ
ン=ジャズの曲名)風のエンディングで。
と、こうお伝え願えまっか」
「ハハハ、面白いな。おい、100円やるから、もういっぺんやってみな」
「何ゆうてんのや、忙しいのに。まーいっぺんゆうさかい、あんじょう聞いてや。
歌う曲のキー、ジーゆうてましたけど、キーが違ごてましたんで、シーのキーでお願いします。
アタマ、ヤノピでボロンと音ください。ルバートでエーエービーエーのエー行ったら、手ぇ
振りまっさかい、次のエーからインテンポで。ワンコーラス行ったら、タイコのオカズで、
次のワンコーラスはインストでお願いします。ラッパのメロに、ボントロとク
ラにからんでもろて、シーデキ風にやってもらうとええんやが。プランジャー使こてもら
うのもええでんな。そのあと、サビから歌出まっさかい、そこからバンドさん、チータで
やってもろて、ケツはAトレン風のエンディングで。
と、こうお伝え願えまっか。ほな、よろしゅう!」
「あーあ、行っちゃったよ。100円やるって言ったのがいけなかったかな。200円っ
て言やよかったな。あ、バンマス、お帰り」
「おい、今出て行ったの、ターウのジャーマネだろ。何か言ってなかったか」
「うーん、っとね。えーっと、目盛がどうのこうの・・・」
「馬鹿、目盛じゃない、メモリーだ。カンバンの代わりに打ち合わせに来
たんだな。で、なんて言ったんだ」
「えーっとね・・・あ、そうだ、爺さんが気が違ったんで、死んだ気でお願いします、っ
て」
「爺さんが気が違った!?ふーん、そりゃ気の毒に。リハーサルじゃ普通に歌ってたが。
そりゃ、バンドも死んだ気でやるが、それから」
「で・・・頭がボロボロで、そんで、海老と海老が手を振って、インポテンツになった」
「なんだか変だな。頭がボロボロで、海老が手を振る?インポテンツって、下半身もボ
ロボロってことか?で」
「それから、たらこのおかずで、インスタントのわんこそばを食べたい」
「たらこのおかずに、インスタントのわんこそば?妙なモンを食べたがるんだな。それから」
「えーっと、らっぱ飲みして、ボンクラがからんで、秀樹がブラジャーをして、チータ
ーのお尻から錆(サビ)が出た」
「おいおい、お前の言うことは変だな。もういい、俺が行って聞いてくる。まったく、お前み
たいなのがうちのメンバーだと知れたら、ギャラも取れんだろ!」
「ええ、取れん(Aトレン)」
注)「金明竹」は落語の与太郎噺のひとつです。
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