<よいこの音楽べんきょう室・パート13>

                     <管楽器が鳴るしくみ>


「ねえ先生、大変!どうしたらいいと思う?」

あら、どうしたの、夏休みはあと3日あるっていうのに、職員室に飛び込んで来て。それ とも、ラジオ体操に行くつもりが、寝ぼけて学校に来ちゃったのかな。

「そうじゃないの、先生。夏休みの宿題の、自由研究があったでしょ。実は、お父さんが 職探しで忙しくて、で、お母さんがパートで働いてて、おじいさんが通風で、おばあさん が妊娠中で、弟がAKB48に夢中で、妹がマフィアに誘拐されて、だから、私一人で家 事を切り盛りしてて、自由研究どころじゃなかったの。ねえ先生、あと3日間で出来る自 由研究って、何かないかしら」

(おやおや、どうせそんなこったろうと思った)あらまあ、おうちは大変なことになって るのね。おばあさんが妊娠中、となると、生まれてくる子は、あなたの何にあたるのかし らね。

「そんなことはどうでもいいから。それでもって、なるだけ安くすむ・・・そうね、材料 が全部100円ショップで揃って、それでもって楽しくて、みんながアッと驚く、みたい な自由研究がいいんだけど。それと、あたしの得意分野がいいな、音楽とかの」

(アホか!勝手なこと言ってんじゃねえ)まあ、夏休みがあと3日しかないのに、かなり 欲張った願望だけど、しょうがない、手伝ってあげようか。音楽ということなら、楽器の こととか・・・そうだ、『自由研究・管楽器の鳴るしくみ』なんて、どうかな。

「(なんでもいいんだよ、提出すりゃいいんだから)あ、それでいいや」

あんだって?それでいいや、って言った?

「(あ、聞こえちゃった)ううん、それがいい、それが最高だ、そいつぁクールだ、って言ったの。 で、どんなのやるの?」

まず、管楽器というのは、発音体、つまり音を出す元、によって3つのタイプに分けられ るの。その3つというのは、
1.リード(葦の小片)を振るわせるタイプ
  クラリネット、サクソフォーン群、オーボエ、ファゴット、チャルメラなど
2.気柱(管楽器の中の空気)を直接振るわせるタイプ
  フルート、ピッコロ、和笛、尺八、口笛など
3.唇を振るわせるタイプ
  トランペット、トロンボーン、ほら貝、ディジュリドゥ(アボリジニーの民族楽器) など

「先生、それって理屈でしょ。じゃなくてぇ、それをどうやって自由研究にするのか、が知 りたいんだけど」

(あわてんじゃねえ)理屈じゃなくて、理論って言って欲しいわね。それでね、この3つ の音の出る原理を応用して、楽器を作っちゃおう、というのはどうかな。

「え、楽器を作るの?ステキ。じゃ材料教えて。今から100円にショップ行って買って来 るから」

じゃ、これとこれとこれ、買って来て・・・おやおや、自転車ブッ飛ばして行っちゃった・・・ お、戻って来た。あ、領収書出してもダメよ。お金は自分で払ってちょうだい。じゃ、早速 作ってみようか。まず、

1.リード(葦の小片)を振るわせるタイプ
<準備するもの>
・ストロー(口径が5〜6mmぐらいのもの)
・はさみ
・蚊取り線香
<作り方と鳴らし方>
ストローの片方の先端を少し押しつぶして、はさみでU字形に切り取る。(V字形にすると 先端がとがってケガをするので注意。)次に、火のついた蚊取り線香でストローの途中に小 さな穴をいくつか開ける。(火傷をしないように注意。)これで完成。U字形の先をくわえ て息を吹き込むと、チャルメラのような音がする。指で穴を開閉すると音階が出来る。

「へー、これで音が出るの?・・・ブギューピー、フギュァーピー・・・あ、出た出た! ねえ先生、これって、屋台のラーメン屋さんのチャルメラみたい」

そう、これは、オーボエとかファゴットの2枚リードの楽器が鳴るしくみと同じなの。吹 き込まれた息の勢いでU字形の先端が閉じ、それがストローの弾力で元に戻る、その繰り返 しで空気が振動して音が出る、っていうしくみなのね。じゃ次は、

2.気柱(楽器の中の空気)を直接振るわせるタイプ
<準備するもの>
・ストロー(口径が6mm以上の大きいものがよい)
・はさみ
・セロテープ
<作り方と鳴らし方>
ストローの片端を1cmぐらい折り曲げてセロテープで留めて閉じる。もう片方は、先端か ら5cmぐらいのところにさみを入れて、首の皮一枚残してつながっている状態にする。5cm 側のつながっている先を指でつぶして薄くする。先端を閉じた方の側には半分ぐらい水を 入れる。5cm側の方から、角度を調節しながら息を吹き込むと、ピーッと音がする角度が ある。そのときに水の入った側のストローを押すとトロンボーンのように音程が変わる。

「どれどれ・・・ピーッ。あ、これって、ビンの口に唇を当てて鳴らすと、ボーッて音が するのといっしょだ」

そう。吹き込まれた息が、管の中の空気柱を振動させる、というのが音の出るしくみ。で、 ストローは柔らかいから、押すと水が押し上げられて音程が変わるわけね。尺八とかフル ートなんかも、吹き込まれる息の角度によって音が出るポイントがあるのね。じゃ最後は、

3.唇を振るわせるタイプ
<準備するもの>
・ストロー
<作り方と鳴らし方>
ストローには何も細工をしない。唇の少し内側の柔らかい部分でストローを軽くくわえ、 息を吸い込むと音が出る。先端を両方の手のひらで包んで、開いたり閉じたりすると音程 が変わる。

「えー、そんなんで鳴るの?・・・フギァ、フギァ、フギァ、あ、赤ちゃんだ!クオッ、 クオッ、クオッ、これだとオットセイに聞こえる!そうだ、これって、死んだおじいちゃ んがキセルでよくやってた」

(え、おじいちゃんは通風じゃなかったのかい?)金管楽器の場合、実際は 息を吹いて唇を振るわせるんだけど、ストローじゃ口径が小さ過ぎて唇が当てられないから、 逆に、息を吸って唇の内側を振動させて音を出してるわけ。
どう、自由研究、こんなんでどうかしら。

「(なんだ、全部ストローを使ったやつばっかりじゃん、安っぽー。でも、ま、いいか)先 生、ありがとう。この自由研究、クラスで発表したら、みんな、びっくりするだろうな」

さあ、それはどうかしら。

「え、どうして?」

だって、今の自由研究、相談に来たクラスの子、全員に教えてあげたのよね、ヒッヒッヒッヒッ。
じゃ、よいこの音楽べんきょう室、今回はこれまで。
まったね〜。