<よいこの音楽べんきょう室・パート10>


                 鍵盤ハーモニカってナンやねん?


「あのね、先生。こないだ、ダディとジャズを聴きに行ったの」

「(ダディ!?お前には「おとっつあん」がお似合いじゃ)あら、よかったわね」

「それでね。そのとき、鍵盤ハーモニカを演奏する人がいたんだけど、その人、その楽器を「ピア ニカ」って呼んでたの。あれって、鍵盤ハーモニカとは、別の楽器だったのかなあ」

「あらそう。その人、そんなに若くなかったでしょ」

「うん、けっこうシートーのチャンオツだった」

「(シートーのチャンオツ!?親はどんな教育しとんじゃい!)あらー、いい子はそんな言葉、使 ったりしないのよ。つまり、けっこう歳のおっちゃん、じゃなくて、おじさんだったのね。実はね、 あの楽器って、作ってる楽器メーカーによって、
・ヤマハ・・・ピアニカ (ピアノとハーモニカの合成語)
・鈴木楽器製作所・・・メロディオン (メロディとアコーディオンの合成語)
・ゼンオン・・・ピアニー
・ホーナー(ドイツ)・・・ホーナーメロディカ
なんて、固有の呼び名があるの。
で、わりとシートーの、じゃねえや、歳のおじさんたちは、ヤマハのピアニカが主流だったころに 育ったから、ピアニカって呼ぶ人が多いのね。でも、学校教育で使うことになった時、楽器メー カーの固有名詞は使えないから、鍵盤ハーモニカっていう、一般名詞を使うことになったの。 だから、あなたみたいに、学校で習った人たちは鍵盤ハーモニカと呼ぶし、逆に、おじさん達 にしてみたら、『鍵盤ハーモニカってナンやねん?』って感じ。わかったかな」

「ふーん、そうなんだ。ねえ、どうして学校で鍵盤ハーモニカを使うようになったの?」

「昔はハーモニカが主流だったの。歴史のある楽器だし、和音も出るし。でも、口にくわえる楽 器だから、先生が指導するのが大変。次にリコーダーになったけど、こちらは和音が出せな い。それで、新しい試みとして、鍵盤ハーモニカが採用されたわけ」

「でも、鍵盤ハーモニカを演奏する人って、あんまり見かけないよ。どうしてかな」

「ハーモニカやリコーダーに比べて、歴史が浅くて、愛好家が少ないせいね。でも、 ソロ楽器として使う演奏家も増えてきてるから、長所、短所が見直されながら、少しずつ広まっていくと思うわ」

「長所、短所っていうと?」

「そうね、並べてみると、
○長所
・楽器が軽いので、ステージで手に持って長時間演奏できる
・鍵盤の幅が狭いので、手の小さい人や子供でも幅広い音域が出せる
・鍵盤が軽いので、グリッサンドが効果的に使える
・息で鳴らすので、息の吹き込み具合でフォルテからピアノまで幅広い表現ができる
・息で鳴らすので、管楽器のようにダブルタンギングや、フラタータンギングが使える
●短所
・備え付けのリード(金属片)が鳴る仕組みなので、簡単には調律が出来ない
・息で鳴らすので、たくさんの鍵盤を押すと音量が小さくなったり、息が切れたりする
・音源のリードが小さいので、あまり強く息を吹き込むと音程が下がってしまう
・音色がアコーディオンに似てるので、独自性を見つける必要がある
まあ、ソロ楽器として魅力はあるけど、まだまだ改良の余地あり、ってとこかな」

「ふーん。先生、その、なんとかタンギングって何?」

「ダブルタンギングっていうのは、吹きながら「タカタカ・タカタカ〜」みたいに発音すること。鍵盤を押してじ ゃとても出来ないぐらい、細かく音を切ることが出来るわ。フラタータンギングは、舌を「ルルルルル〜」 って震わせる方法。ジャズでもよく使われるわね。吹き口から口を少し離して吹くとうまく いくわ。早い話が、鍵盤楽器なんだけど吹奏楽器の奏法も使える、ってことね」

「音が小さいとか、音色の問題とかは、どうしようもないの?」

「いんにゃ。出力端子が付いてて、アンプにつなげられるのもあるし、バス音域の鍵盤ハ ーモニカもあるし。それはそうと、あなたも、鍵盤ハーモニカ頑張らないと、音楽の成績、クラスで最悪よ」

「(しまった、やぶ蛇だ)はーい。あ、先生、私、鍵盤ハーモニカの短所、もう一つ見つけた」

「へーえ、どんな短所?」

「えっとね、なんか食べながらだと、演奏出来ない!」

「(アッタリ前じゃい!)そうね、人間、何かを二ついっぺんにやらないことね。あくびしながら、なんか 噛もうったって、無理だし。
じゃ、よいこの音楽勉強室、今日はこれまで。まったねー!」