<よいこの音楽べんきょう室・パート3>

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「ねえ先生、ニュースで言ってた『ミシュランガイド・東京版』って、何のこと?」

ああ、あれはね、東京にあるいろんな飲食店を、「格付け」って言って、料理の美味しさな んかでランクに分けて、それを星の数で表した本のことよ。

「へー、そうなんだ。でもさ先生、味の好みなんて、人それぞれだと思うんだけど、いっ たいどんな基準で格付けするんだろうね」

(ガキんちょのくせに生意気〜)そうね。料理の美味しさの基準って、多分に主観的なも のだから、キチンとした基準がないと、評価がいい加減になってしまうわね。

「ねえ先生、バンドマンにもそんな格付け基準があったら、面白いのにね」

「(てめぇ、バンドマンをなめてんのか!)それは難しいわね。でも、先生も以前「二流バ ンドマン格付け本・シュランガイド」ってのを作るために、格付けの基準を考えたことが あるわ。

「シュランガイド?ミシュランじゃなくて?」

先生が酔っ払ったときに作ったから「酒乱ガイド」

「(くっだらねー!)わー、面白そう。その基準って、どんなの」

教えてもいいけど、そんなのが二流バンドマンに知れたら、先生、袋叩きにあっちゃうか ら、誰にも言わないって約束する?」

「(やったー、弱みを握れる)うん、絶対言わないって約束する(瞳の中に☆)」

じゃあね、先生が作った基準というのは・・・・・・・

【二流バンドマンの格付け基準について】
これは二流バンドマンの格付け基準である。10級から1級までの段階で示してある。二流 バンドマンを格付けする際の基準にされたい。なお、以下はあまで二流バンドマンの格付 け基準であり、「一流バンドマン」の格付けは一段、二段という「段位」となる、くれぐれ も誤解のないように。またこの基準は特秘事項であり、外部に漏洩してはならない。

10級(到達率100人中100人)
ジャズという言葉に憧れ、バンドマンになっていつかはメジャーに、という妄想のもとに 楽器を始めたばかりのクラス。とりあえず音が出て、音階が出来る程度。ジャズ理論やア ドリブなどとは無縁。

9級(到達率100人中50人)
狭い音域、少ない音数を使って、なんとなくアドリブらしいものができるクラス。実は、 自分が「ジャズ通」だと思っているアマチュアジャズマンの大半はここに属している。こ こは単なる入り口だということを認識出来ず、生涯ここから抜け出せない。練習中も演奏 するよりしゃべっている時間の方が長く、そのため口は達者。

8級(到達率100人中10人)
ジャズをやる大半が9級なので、この段階でも仲間内では「プロ並み」として通用する。 ダイアトニックコード(ドレミファソラシドの上に出来る基本的なコード)を使って、常 識を無視した突飛なアドリブを聴かせる。が、実は、自分が何をやっているかは、分かってい ない。「先生」と呼ばれ人を教えることもあるが、教えられた方は災難で、生涯、先生のレ ベルには達しない。本人もここがピークで、この先延びることはない。

7級(到達率100人中1人)
簡単な曲で「ジャズもどき」のフレーズを演奏し、得意満面になり始める段階。ジャズと は何かを熱く語り、周りから浮いていることに快感を感じる。コードとは何かを他人に説 明するが、理論をよく理解していないので、途中で自分が何を言っているか分からなくな る。

6級(到達率200人中1人)
もはや仲間内ではスター。どのアマチュアバンドでもチヤホヤされ、羨望の眼差しを受け る。「東京に行く」という言葉が頭をかすめる。しかし一方で、今まで自分がやってきたこ とにやっと疑問を持ち始め、いろんな音楽雑誌に目を通すが、内容が理解出来ないので、 見ているのは写真だけのことが多い。

5級(到達率300人中1人)
自称バンドマンを名乗り、ホテルでのパーティなどで演奏するようになる、但し、BGM 程度。アドリブも無難にこなす、但し、聴いていて退屈。本来ならギャラが貰えるには程 遠いのだが、町にはこのバンドしかないので、無条件で雇ってもらえる。ファンだという 客が無責任に誉める。それが上達の妨げであるという意識が無いので、ますます増長する。

4級(到達率500人中1人)
仲間内では20年に1人の逸材と言われる。この町は自分にはレベルが低すぎる、などと口 にするが、それが自分の責任であることには思い至らない。時にはサマになるアドリブが 飛び出すこともあるが、出来・不出来の差が激しい。自分のアドリブが思い付きと勢いだ け、ということに気が付いていない。

3級(到達率1,000人中1人)
隣の町の二流バンドマンに混じっても演奏が出来る。アドリブも無難にこなすが、客を魅 了するには至らない。いろんな面で得意、不得意の差が激しいことに気付くが、それが自 分の我がままから生じていることには気付かない。自己満足と自己嫌悪の波が繰り返しや ってくる。

2級(到達率10,000人中1人)
どんな町の二流バンドマンに混じっても演奏が出来る。「ジャズ教室」を開き、生徒を取る ことが出来る。こじゃれたアドリブも飛び出すが、CDにして売り出して買い手が付くほ どのものではない。本場のリズムに比べて、自分のリズムが貧弱なことに気が付く。しか し、どこをどう直せばいいのかは分からない。

1級(到達率50,000人中1人)
全国レベルの二流バンドマンに混じって演奏が出来る。自他共に公認のプロとして活動す るようになる。しかし、この段階に至るまでに、すでに自分の人生と財産のかなりの部分 を使い果たしている。この先、上を目指してさらに人生と財産を費やすのか、二流止まり で妥協して使った財産を回収するのか、行くも地獄、引き返すも地獄、の状態。

以上が二流バンドマンの格付け基準である。なお「二流バンドマン1級」の 上は「一流バンドマン一段」となり、以降二段、三段と続く。最高位は「一流バンドマン 名誉十段」で、デューク・エリントン、マイルス・デイビスなどがこの地位にある。

ざっと、こんなのだけど・・・・(って、おい、寝てるんかい?話の途中で寝るなんて、い い度胸してるじゃん、通知表、楽しみにしとくんだな)ちょっと、格付けの話、分かった かな・・・

「ん?・・・あー、よく寝た。先生の話、長げーよ。ま、早い話が、大人って格付けが好き ってことよね。まさか先生は、話の途中で寝たかどうか、みたいな、いい加減な基準で通知 表をつけたりは、しないよねー」

そうね、あなたも、秘密の約束をした話を、漏らしたりしないようにねー。じゃ、よいこの 音楽べんきょう室、今日はここまで。バイバイ、まったねー。