陣内智則風「バンド部屋でお留守番」

あれ、誰もいてない・・・あ、そーか、みな、リハ終わって、外にシーメに行ってんねや。 しもたなー、俺もついて行ったらよかった。一人でバンド部屋で留守番て、かなんなー。 みな、はよ帰って来んかな。

あ、内線電話や。
「もしもし、バンド部屋です」
「あ、バンドさん?今日のショーのマネージャーやけど。さっきリハでやった曲のうち、4曲 目までは、テープにしましたさかい。あと、6曲目から最後までテープ。それと、5曲目は アカペラでいきますて、バンマスにあんじょう言うといてください。ほなよろしゅう(ガチャン)」

愛想の悪いジャーマネやな。なんやゆうてたな、1曲目から4曲目までがテープで、5曲目 がアカペラで、あとがテープ・・・ほな、今日の曲、全部、バンドいらんやないか!何のためリハ したんや。けったいなジャーマネやな。バンマスは喜ぶやろけどな。

あ、また、内線鳴ってる。
「はい、バンドです」
「バンドさん?誰かそっちにピッケル持ってってないか、ビッケル」
「(今度はボーイさんや、ピッケル?なんでそんなもんが要んねん)ピッケルて、山に 登る時に使うやつやろ?」
「何言うてんの、誰がキャバレーの中で山に登んねん!氷を割る、アイスピッケルや」
「(氷を割る?・・・)それて、アイスピックやないか?」
「・・・ああ、そうとも言うわ。誰も持ってってない?ほなええわ(ガチャン!)」

なんや偉そうに。なにが『アイスピッケル』や。あんなんで、ようボーイ勤まっとんなー。

あ、今度は外線や、外線いややな。時々変な電話かかって来よるさかいな。
「もしもし、バンド部屋です」
「あ、バンドさん?今日のショー、何?」
「(ああ、ホステスさんやな)、今日は地元出身の、演歌歌手になってます」
「地元出身の歌手?それて、どっかのカラオケ教室の先生とかと、ちゃうの。せっかく同伴で 来んのに、なんでそんなショーなん。ほんま、しょーもないショーでしょう、やな、 座布団一枚ちょうだい(ガチャン)」

何がしょーもないショーでしょうや、好きなこと言うとるな、誰が座布団やるか、アホ。

あ、また外線や。
「はい、バンドです」
「あ、おとうちゃん」
「(なんや、娘や)どないしたんや、店まで電話してきて」
「あんなー、今日宿題出てなー、わからへんねん、教えてー。あんなー、『来る』の尊敬語て、なに?」
「(けったいな宿題出っしょるなー)あのな、尊敬語ゆうんは、相手の人をうやもうて言う言葉なんや、 そなからな、たとえば『先生が来る』やったら、どない言う?」
「えーと・・・なんやろなー・・・」
「わからんか。『先生が来はる』、やないか」
「あ、『来はる』か!やっぱ、お父ちゃん頭ええなあ。ほなな(ガチャン)」

俺、国語は得意やったさかいな、あれぐらいの問題なら、なんてことあらへんわ。

また外線や、ようかかって来よんな、ええんかげんにせーや。
「もしもし、バンドやけど!」
「おう、バンマスおるか」
「(わー恐い声やな、そのスジの人かいな、いややなー)バンマスは今、メシ食いに出てます」
「メシ?借金返さんと自分だけメシ食うとんのんか、ええかげんにさらせよ!ホンマはな、昨日 電話するつもりやったんやが、ゴルフ場からかけたさかい、携帯にマキガイ、出とってな」
「(マキガイ?携帯に巻貝てなんやろ?)あの、マキガイて、なんです?」
「お前、マキガイ、知らんのか、トロいやっちゃのー。電波が届かん、ちゅうこっちゃ」
「(電波が届かん?・・・)あの、それて、ひょっとして、『圏外』とちゃいますか」
「県外?アホ、大阪は県やのうて、府じゃ、そんなこともよー知らんのか。やっぱ、バンドマンは アホばっかしやのォ〜」
「(どっちがアホや・・ )えろ、すんません」
「ほな、バンマスの携帯に電話して、すぐ俺に電話入れろ、言うとけ。金返すのがちぃっとでも 遅れてみ、お前の責任やさかいな。ええか、ドアホ!(ガチャン)」

あー、恐かった!なんで俺が留守番の時だけ、こんなんやねん。そやけど、『圏外』の圏の字、 真ん中が『巻』やからゆうて、マキ、て読むか、ふつう。
あ、そや、バンマスの携帯に電話せな。こっちの責任言うてたな、かなんなー、もー。えーと、バン マスの短縮は、ピッピッと・・・まさか、マキガイ、やないやろな、はよ出てくれんと困るで・・・
「あ、もし、も・・」

「ただ今電話に出られません。借金の催促以外の方は、メッセージをどうぞ・・・・・ピーッ」



(ネタの一部をリンク集の『絶対サポセン黙示録』から借用しました、ありがとうございました)