バンドマン逸話集


                        バンドマン逸話集


逸話(anecdote=アネクドーツ)とは、ある人物や事柄についての知られざる話、興味深い話 など、いわゆるエピソードのことである。
それらのなかには、人々の口から口へと伝わる間に、尾ひれが付き、誇張がほどこされ、「伝 説」として語り継がれてきているものも、数多い。
バンドマン界においても、まことしやかに語られている逸話が存在するので、幾つかご 紹介しよう。ただ、それらの逸話のうち、どれが事実に忠実なもので、どれが伝説に形を 変えたものなのかは、読者の判断にお任せすることにする・・・。

【逸話1】
♪あるバンドが地方のライブハウスで出張演奏をしたときのこと♪
店に乗り込んだバンドマンたちはア然とした。なぜなら、その店のピアノがあまりにもオ ンボロだったからだ。弾いてみると、案の定、調律がまったくされていなかった。
バンドのリーダーは店のオーナーに言った。
「すみませんが、このピアノでは、お客様にいい演奏を提供することが出来ません」
店のオーナーは答えた。
「わかりました。演奏は明日の晩だから、明日の夕方までにはなんとかします」
(そんなに簡単に調律師が来てくれるのかな・・・)メンバーは一抹の不安をかかえながら、宿に入った。
翌日の夕方、リハーサルのために店に入ったメンバーに対して、店内で待っていたオーナ ーが自慢げに言った。
「見てください、このとおりバッチリです」
メンバーはあっけにとられた。彼らが見たもの、それは、塗りたてのペンキでピカピカに 光っているピアノだった。

【逸話2】
♪ある店のへそ曲がりなバンバス(バンドのリーダー)の話♪
バンドの制服をまとめてクリーニングに出したところ、クリーニング店の手違いで、その 日のステージに間に合わなかった。やむなく、その日は全員、私服でステージにあがるこ とになった。
すると、その店のオーナーがとんで来て大声で言った。
「おいおい、なんて格好で演奏してるんだ。だいたいお前らのバンドは、制服のおかげで 格好がついているようなものなんだからな」
次の日。オーナーがステージを見ると、また全員が私服で演奏している。
「おい、クリーニングは出来てきたんだろ。なんで制服で演奏しないんだ」
すると、バンマスはステージの脇を指差して言った。
「制服なら、そこにあるよ。このバンドは、制服のおかげで格好がついているようなもの なんだからな」
オーナーがステージの脇を見ると、そこには、バンド全員の制服が、ハンガーに吊るして 並べてあった。

【逸話3】
♪バンドマンのイタズラには用心が必要だ♪
数人のバンドメンバーが集まって食事をしていたとき、そのうちの一人が食事中にもかか わらず、つま楊枝で歯を「シー、シー」とやりだした。気になったほかのメンバーが「お い、食事中はそのシー、シーはやめろよ」と言うと、そのメンバーは「ふん、ラッパ(管 楽器奏者)は歯が命、大きなお世話」と言って、トイレに立った。
用を済ませて戻ってみると、他のメンバーは全員席にいない。
「ふん、一人で気楽に食事が出来て大助かりだ」。そう言って、食べかけのご飯に箸を入れ ると、箸の先に何か当たるものがある。取り出してみると、つま楊枝が出て来た。さらに もう一本、また一本・・・。結局、テーブルの楊枝立てにあった全部のつま楊枝が、その ご飯の中から出て来た。

【逸話4】
♪凝りだすと病的に凝る、そんなバンドマンも多い♪
演奏まえに、あれこれとマウスピース(口にあてがう部品)を出して悩んで いるメンバーに対して、他のメンバーがからかうように言った。
「そんなにマウスピースを取替えて、いったい何本持ってるんだ」
するとそのメンバーは大真面目で答えた。
「さあ・・・。ハンカチの数は数えたことがあるが、マウスピースは数えたことがない」

【逸話5】
♪バンドマンには、その土地ごとのポリシーがある♪
中央から来たバンドマンが、地方のバンドに混じって演奏する機会があった。ハイトーン を演奏していると、地方のバンドマンが不思議そうな顔で尋ねてきた。
「あまりキツそうじゃないけど、その音はそんなに楽に出せるのかね」
「いいや、けっこうキツい音です」
「じゃ、キツそうな顔をするもんだ。バンドマンたるもの、何事にも『勿体』ってものを つけなくちゃ」

【逸話6】
♪逸話はいつのまにか一人歩きを始める♪
有名なバンドが地方でコンサートを行った後、メンバー数人が地元のライブ ハウスに遊びに行った。そこで、あまりにも素晴らしい演奏をする若者を見かけたので、 声をかけた。
「君、うちのバンドに来て演奏する気はないかね」
その若者は答えた。
「ありがたいお話ですが、私はこの町に根付いた音楽を愛しているんです」
「そうか、残念だが、その心意気は素晴らしい」
翌日、そのバンドはその町を去って行った。
その一週間後、その町には「実は俺、あの有名バンドから声をかけられたが断ったんだ」 と、こっそり自慢するバンドマンが溢れていた。

【逸話7】
♪行き過ぎ、というのもどういうものか♪
ジャズ一筋で生きてきた、というバンドマンが、あるとき、アレルギー反応をおこして病 院に搬入された。
病院の先生が尋ねた。
「何か、アレルギーを起こすようなものに接しませんでしたか」
そのバンドマンは、しばらく考えて言った。
「そういえば、演歌を聴いた」

【逸話8】
♪バンドマンの恨みはしつこい♪
ドラマーが、ある航空会社の飛行機を利用して、ツアーに出掛けることになった。
ドラムセットを荷物として預け、飛行機に乗り込み、目的地のA市に着いてから、ドラムセットを確認 すると、太鼓のセットはあるが、シンバルやスタンド類がない。あわてて、いったいどうなってるんだ、と 航空会社の者に詰め寄ると、しばらくしてやっと返事があった。
「申し訳ありません、その荷物はB市の空港に届いておりります」
そのドラマーは、やむなく、シンパルとスタンドを現地で調達するはめになってしまった。
半年後、同じ航空会社の飛行機でツアーに出掛けることになった、そのドラマー。
荷物受付のカウンターで、
「このドラムセットのうち、この荷物はA市に、この荷物はB市に届けて欲しいんだが」
受付の係の女性は、なんてことを言う客だ、と思いながら答えた。
「お客様、そういうことは出来ないんです」
そのドラマーは言った。
「へー、そうかい。前回は、そうやってもらったんだがね」


最初に申し上げたとおり、これらのバンドマンに関する逸話について、その虚実の判断は皆様にお 任せする。
ただ、これと同じ、もしくは類似した逸話が、過去現在、そして洋の東西を問わず、バ ンド界に存在していることは、紛れもない事実である。