「いつもここから」風「バンドマンはかわいいねー」


「坊や、見てごらん。ここがバンド部屋だよ」
「棚にいっぱい、楽器のケースが置いてあるね」
「ただ置いてあるんじゃないよ。取りやすい真ん中の段は、古くからいる人、 取りにくい上とか下の段は、若い人が置くんだよ」
「あ、真ん中の段に置いてあった、若い人のケースが、放り出されちゃったよ」
「若い人は、何回かそうされないと、置いちゃいけないって分からないんだよ、かわいいねー」
「かわいいねー」

「お父さん、ステージで、立ったまま演奏している人、だ〜れ」
「あの人がバンマスって言って、バンドで一番偉い人だよ」
「ふーん、ほかの人は革靴はいてるのに、あの人だけ、ゴム長靴だね」
「あの人は、昼間、ダンプカーの運転手のアルバイトをしてて、そのままステージに上ったんだよ」
「横を通るお客さんから丸見えだね」
「でも、本人は”楽譜スタンドがあるから見えない”と思ってるんだよ、かわいいねー」
「うん、かわいいねー」

「見てごらん、もうすぐ歌謡ぐショーが始まるよ」
「あれ、お父さん、マイクの準備をしてる人が、マイクスタンドを持ったまま、固まっちゃったよ」
「あれはね、電気コードが破れて漏電してたんで、感電しちゃってるんだよ」
「ふーん、あ、やっと放せたみたい」
「あの人、怖くて当分マイクスタンドは持てないよ、かわいいねー」
「かわいいねー」

「お父さん、ショーで歌ってる人が、手を後ろに回して、手首をピョンピョンはね上げて るよ」
「あれはね、”テンポが遅いから早くしろ”って、こっそりバンドに合図してるんだよ」
「でも、バンマスは、自分の楽譜見るのに精一杯で、全然気が付いてないね」
「ほかのメンバーは気が付いて、バンマスに合図してるんだけど、それでも気が付かないね」
「あ、気が付いたみたいだよ」
「でも、慌ててドラムにテンポを出したら、今度は早くなり過ぎて、歌の人に睨まれてるよ、 かわいいねー」
「うん、かわいいねー」

「お父さん、ステージの横に幼稚園ぐらいの子どもがいるよ」
「あれはね、メンバーの人がお母さんと離婚して、しょうがなくて連れて来てるんだよ」
「あ、ショーがあってるのに、父さんのとこに行っちゃった」
「お客さんや、ホステスさんが見て、ゲラゲラ笑ってるね、あ、また歌の人からバンマスが 睨まれてるよ、かわいいねー」
「かわいいねー」

「お父さん、バンドが交代するとき、次のバンドの人が、バンマスに何か言ってるよ」
「あれはね、ショーが早く終わったんで、”自分たちも早く終わらないと損だ”って、 バンマスに文句を言ってるんだよ」
「ホントだ、予定より5分早く終わったね」
「そしたら、バンマスが”たった5分ぐらいケチケチしなさんな”って、言ったもんだから ますます興奮しちゃって、ステージの上で言い合いしてるんだよ、かわいいねー」
「うん、かわいいねー」

「あ、ステージから降りて来たトランペットの人が、変なおじさん達に囲まれちゃったよ」
「あの人はね、前のバンドでバンマスをしてて、みんなの給料を持ち逃げしちゃった んだよ」
「ふーん、でも、別のバンドに入ってステージに上ったら、すぐ見つかっちゃうのにね」
「ほかに出来る仕事はないし、名前を変えて、ひげをはしやしたら、見つからないと思ったん だね、かわいいねー」
「かわいいねー」

「お父さん、休憩時間に、みんなでバンド部屋のストーブの上で、ギョーザを焼き始めたよ」
「うん、ほかに、あさり貝とか、お刺身を焼いたりするよ」
「ふーん、あ、今度は焼肉だ、でも焼肉は、すごい煙が出るね」
「そうだね、ほら、その煙で、火災報知器が鳴り出して、店は大騒ぎだよ」
「ホントだ、ボーイさんがすごい勢いで、消火器を持って飛び込んできたよ」
「見てごらん、それでも平気な顔して、食べ続けてるバンドマンがいるよ、かわいいねー」
「うん、かわいいねー」
「ホントに、バンドマンってかわいいねー・・・」
「ホントに、バンドマンってかわいいねー・・・」