<よいこの音楽べんきょう室・パート12>

                     <編曲?変曲?>



「ねえ先生、こないだね、おもうさまと、おたあさまと、三人でファミリーコンサートに行 ったの」

(おもうさま、おたあさま!?お前んとこはお公家様か!)ああ、パパ、ママのことね。そ れはよかったわね。きっと、公開放送の抽選に当たったのね。いろんなぬいぐるみが出てき て、楽しかったでしょ。

「(おいおい、『お母さんといっしょ』じゃねえよ!)あのね、そんな幼児向けじゃなくて、 大人から子供まで楽しめる、ファミリーコンサートだったの」

あら、そうだったの(でも抽選で当たったのは間違いねえだろ)。それで?

「それでさあ、プログラムの中に私の好きな演歌の曲があったから楽しみにしてたら、確 かにメロディはその曲なんだけど、元の曲とゼーンゼン感じが違うし、カラオケのときの キーとも違うから歌えないし、もう頭にきちゃって、金返せ〜!って、叫んだの。あれっ て、いったいどうなってんのかなあ」

あらあら、そんな、学校の恥になるようなこと、しちゃダメよ(それ以前に、演歌好きの 小学生って気持ち悪いわい)。それで、その曲って、どんな感じだったのかな。

「そうねぇ・・・なんか、よくダディと聴く、ジャズみたいな感じだった」

(おもうさまの次はダディかい)ああ、やっぱりそうなのね。それは、その曲がジャズ風 にアレンジ、つまり編曲されてたのよ。

「ヘンキョク?それってつまり、曲を変にする、ってゆうこと?」

(おーおー、ゆうてくれるじゃねえか)ううん、違うの。編曲というのは、たとえばある メロディがあるとすると、
A.前奏・間奏・後奏を付け、伴奏などの構成を決めて、魅力的な曲に改編する
B.オリジナルの曲とは異なる形態(楽器や構成など)で演奏するように改編する
ってことなの。

「へー。Aの場合の、前奏とか間奏とかって、作曲した人が全部作るんじゃないの?」

そうとは限らないわね。編曲を勉強した人なら自分でやることもあるけど、たいていの場 合は、その曲をどんな構成にしてどんな楽器で伴奏を付けて魅力的にするか、どんな風に して売れる曲にするか、なんてことは、その道の専門家がやることが多いわ。

「へー。それってさあ、ある意味、作曲より大変じゃないの」

そうね、いいメロディなのに編曲によってはヒットしない、とか、、以前ヒットしなかった曲 が編曲をやり直したら大ヒットした、なんってこともあるしね。

「ふーん。そんでもって、Bのほうが、金返せ〜、の編曲なのね。でも、なんでそんなこ とすんのかな〜」

それは『元のいいメロディをもっと魅力的に表現したい』、ってことかな。たとえば、有名 な『枯葉』って曲があるけど、これって、
1.フランスのバレエの伴奏用音楽が元 → バレエ音楽
2.それが映画「夜の門」の挿入歌として使われた → 映画音楽
3.有名なシャンソン歌手が歌ってヒットした → シャンソン歌曲
4.アメリカで「Autumn Leaves」として広まった → スタンダード曲
5.いろんなジャズバンドがそれぞれの編曲で取り上げた → ジャズの名曲
という経緯があるの。つまり、いいメロディを特定の形でしか表現しないのはもったいな い、というのがBの編曲のパターンね。特にジャズの場合、「自分なりの表現に挑戦する」とい う考え方が根底にあるし。あなたの好きな演歌がジャズ風に編曲されたのも、元のメロデ ィがいいので、そのメロディをサックスのアンサンブルにしてみたら、とか、リズムをボサノ バにしてみたら、とか、編曲意欲をそそられたんじゃないかしら。

「ふーん。でも、キー(調性)まで変えちゃわなくてもいいじゃん、歌えないしー」

いんにゃ、それは逆で、ジャズ用に編曲する場合は、そこが一番重要なの。編曲するときの ポイントは、
◎キー(調性)・・・曲の聴かせ場の音域とそこで使う楽器の音域がマッチするキーを選ぶ
◎構成・・・曲の長さ、メロディを担当する楽器の配分、盛り上がりの場所、などを決める
◎オーケストレーション・・・どんな楽器をどんなハーモニーで使うかを決める
つまり、曲のキーは、編曲をする場合の、それこそ、キーポイント、なわけ。

「(それってシャレのつもり?)ふーん、ジャズの編曲って、けっこう大変なんだね」

(ちょっとはイジらんかい)そうね、たとえば、某局テレビ番組「携帯大喜利」風に言うと、
『ちっとも盛り上がらないコンサート、いったいどんなコンサートだった?』
答え:トランペットが盛り上げる部分なのに、中音域の音ばかりでエキサイトしなかった
答え:テナーサックスが泣かせる部分なのに、音域が高すぎてアルトサックスみたいだった
答え:トロンボーンが歌う(感情をこめる)部分なのに、音域が低すぎて色気がなかった
キーの選び方がまずいと、こんなことがおきちゃうわけ。

「んー、どれも、アンテナ2本、かな」

あら?あれって深夜番組なのに、なんで知ってるの。ははあ、正月ボケが抜けなくて夜更かし してんでしょ、だからそんなに兎みたいに目が赤いのね。三学期の通知表の連絡欄に書いとくわ。

「(しまった、やぶ蛇!)すみませーん、今度から気をつけまーす。先生も、新年早々兎み たいに充血した目でパチンコ屋から出てこないよう、気をつけてくださーい」

(ゲ、見られた?)ま、今年は兎年ってことで、勘弁してあげるわ。
じゃ、よいこの音楽勉強室、今日はこれまで。
まったね〜。