熊さん流ジャズの勉強法(熊さん呼吸で悩む)


熊:「大家さん、いるかい」
大:「おや、熊さんじゃないか、珍しいな。近ごろは、どうなってるんだ」
熊:「どう、って?」
大:「ここ最近、サックスの音が聞こえないようだが」
熊:「ウフフ、いよいよ俺のサックスも本物になってきたな。なにかい、俺のサックスの音が 聞こえないと、そんなに気になるかい」
大:「ああ、長いこと聞こえないと、死んだかと思っちまう」
熊:「てやんでぇ、大きなお世話だ。でーいち、音を出してなくても練習してんだ、大家さん、 複式呼吸っての、知らねえだろう」
大:「ほうほう、腹式呼吸か・・・ってえと」
熊:「つまりだな、複式ってえぐらいで、口と鼻と、両方からいっぺんに呼吸するんだ」
大:「両方から?ちょっと待ちな、熊さん。腹式ってのは、おなかの、腹式だぜ」
熊:「え、単式・複式の、複式じゃねえのか」
大:「あきれた奴だ。じゃ、ずっと、鼻と口からいっしょに吸う練習をしてたのか」
熊:「ああ。でも、やればやるほど頭がボーッとして、妙な練習だ、とは思ったんだが」
大:「当たり前だ。そんな呼吸もないわけじゃないが、いつもそんなことしたら過呼吸になっ ちまわ」
熊:「で、なんなんです、その福助呼吸、ってのは」
大:「福助じゃない。腹式呼吸と胸式呼吸という、呼吸のやり方だ」
熊:「へー、福助と京助ね、で?」
大:「肺には筋肉が付いていないから、肺自体は、自分で膨らんだり縮んだり出来ない」
熊:「へえ、そうなんですか。じゃ深呼吸なんてのは、どうやってんです?」
大:「肺の周りの胸腔という空間を、広げたり狭くしたりして生じる気圧の差で、肺が膨らん だり縮んだりするんだ。その空間を広げる手段の、一つが胸式呼吸で、もう一つが腹式呼 吸ってことだ」
熊:「えー、聞いてみなくっちゃ、分からねえもんだね」
大:「分かったのか」
熊:「ぜーんぜん」
大:「ま、早い話が、ろっ骨で広げるのが胸式、横隔膜という筋肉を下げて広げるのが腹式、 と思ったらいい」
熊:「どっちがいいんです?」
大:「ろっ骨を動かせる範囲は限られているし、体への負担も大きい。それに比べて、横隔膜 を下げて出来る空間の方がはるかに大きいし、楽に出来る」
熊:「横隔膜を下げる、ってえと?」
大:「大きく息を吸うと下腹が膨らむやり方だ。なに、男性の場合は意識しなくても、ほとん どの人は腹式呼吸をしている。但し、女性の場合は胸式が多いと言われているので、女性 の人は意識した方がいいな」
熊:「なーんだ、じゃ、呼吸の練習なんか、するこたぁねえじゃねえか」
大:「いいや、呼吸にはもう一つ、随意(意識)呼吸、不随意(無意識)呼吸という考え方が ある」
熊:「ズーイ、フズーイ?なんだいそりゃ」
大:「人は、普段起きている時も、また寝ている時も、無意識で呼吸をしている。それが不随 意呼吸だ」
熊:「あったりめえだ。息をするのにいちいち意識してたら、生きちゃいられねえや」
大:「ところが、大声で話す、または楽器を吹く、なんて時は、普段の呼吸では量が足りない から、意識して呼吸する必要がある。それが随意呼吸だ」
熊:「ってえと、楽器を吹く時は、意識して息をしなくちゃならねえ、ってことか」
大:「もちろん」
熊:「へー、どんなふうに意識したらいいんだ?」
大:「まず、楽譜を吹く場合には、曲の流れ、フレーズの区切りなどを見て、メロディーに合 った呼吸の場所を考える」
熊:「ふーん、てえと、思いっ切り、長げぇほうがいいんだな」
大:「いや、やたらに長いと、かえって逆効果のこともある。聞いていて心地よい長さを考え ないと」
熊:「へー、面倒くせえんだな。じゃ、ほかの場合ってのは」
大:「アドリブを吹く場合は、頭に浮かぶフレーズと呼吸とのバランスが重要だ。つまり、息 の不足でフレーズが途切れたり、逆に、息が余ってるのにフレーズが出て来ない、とかしないように」
熊:「ほかには?」
大:「そのほか、フォルテやピアノの時の息の溜め方、ロングトーンの時の腹筋の使い方など、 練習する時にはいつも呼吸を意識して、本番に生かせるようにしないと」
熊:「へー、息をするのも大変だ」
大:「当たり前だ。熊さんみたいに、思い付きで呼吸をするのを何と言うか知ってるか」
熊:「えー、ナンてんです?」
大:「行き(息)当たりバッタリ」