バンドマン風落語『道具屋』


                  バンドマン風落語『道具屋』

えー、明けましておめでとうございます、今年もよろしくお願いをしておきますが・・・。
んー、せっかく新しい年が始まったってえのに、経済評論家なんて先生方が新年早々、「今 年も不景気が続く」、なんてぶち挙げてますが。あれ、正月ぐらいは「今年はものすごく景 気がよくなる!」なんて、言やいいと思うんですがね、ウソでもいいから。ダメなんです かね・・・って、ま、バンドマンなんてのは「デフレで物の値段が下がって何が悪いんだろ」、ぐ らいの頭しかないんで、ご勘弁を願いますが。それから、若い方も、就職活動、略して就 活ってんですか、初めは、シュークリームを付けたカツかと思ってましたけど、 いろいろ大変なようで。

「おい与太郎、こっちへ来な」
「おじさん、なんだ、用ってのは」
「なんだじゃねえ、お前、まだ就職もしねえで、バンドのボーヤ(見習い)やってるって えじゃねえか。少しはまともに働く気にならねえのか」
「そういうけどね、あたいも去年の夏に、自分で商売をやったんだよ」
「ほお、そいつぁ初耳だな。何をやったんだ」
「あのね、チンドン屋」
「チンドン屋?確かにお前は、少しは楽器が出来るだろうが。で、どうだったんだ」
「それがね、町内をチンドン、チンドンやってたら、みんなから、やめろ〜!って、怒鳴 られた」
「ふーん、町内も景気がよくねえのかな。それとも、よっぽど下手だったのか」
「いんにゃ。真夏で昼間は暑かったからね、夜中の12時からやった」
「馬鹿!それじゃ怒鳴られらあ。そんなんじゃなくて、おじさんの商売をやってみろ」
「おじさんの?ああ、夜中に荷物を運んでるとこ、見たことある。“ど”の付く商売だろ」
「そうだ」
「泥棒だな」
「馬鹿野郎、泥棒ってやつがあるか。道具屋だ。昼間、露天で店を出してるんだ。外の軽 トラックに中古の楽器がいくつか積んである。お前も、楽器のことなら少しは分かるだろ うから、自分で工夫して売ってみろ。店を出す場所はここに書いてあるから。熊さんって 人がいるから、よく教わるんだぞ、わかったな」
「へーい・・・・なーんだ、なんか食わしてくれるのかと思ったら、商売やれって、この 寒いのに。ああ、ここだな、トラックはここに止めてっと」
「おい、何してる、人が店広げてる真ん前に、車止める奴があるか!」
「ああ、人がいたのか。あんた、熊さんか」
「そうだが、お前さんか、与太郎ってのは。なんでも馬鹿・・・に、丈夫な甥っ子が行く から頼むと言われてたけど。じゃ、まず品物を降ろして、車はあそこの駐車場に止めてき な。・・・ああ、そしたら、品物を並べて・・・高そうなのは、なるだけ身の回りに置いて、 って言っても、見たところ、ゴミばっかりだな」
「ゴミ?これ、ゴミばっかりか。そういや、ゴミゴミしてる」
「そうじゃなくて、半端な品物を符丁でゴミってんだ。そしたら、少しでも売れるように、 お客さんに声をかけるんだ」
「ふーん、声をね。えー、いらっしゃい。道具屋でござい。出来立ての道具屋、温ったか い道具屋・・・そこのお兄さん、ちょっと、ちょっと、寄ってらっしゃい!」
「なにやってんだよ、え。オートバイに乗ってる人に声をかけてどうすんだ」
「オートバイ?そういや、ずい分足が速いと思った」

「おいおい、道具屋くん。ちょっとそのスネアを見せえ」
「あ、お客さんだ。えーと、ちょっと待って、いまズボンをめくるから」
「おい、何をしちょるか」
「何って、すね毛を見せろって言うから、ズボンとモモヒキをめくってる」
「すね毛ではねえ、スネア、スネアドラム、その小太鼓だ」
「なんだこの太鼓か、これ、おじさんには鳴らせない」
「バカこくでねえ。太鼓なんてのは、叩けば鳴るもんだ、貸してみい」
「鳴らせない」
「鳴らせるから、貸してみい、ゆうとるじゃろ」
「鳴らせない、皮が張ってないから」
「なんじゃ、そりゃ透明の皮ではのうて、胴だけか、そんじゃ鳴らねえな。どれ、このハ イハットは・・・ベシャ、ベシャ・・・こりゃ、なんだか、えらく音が悪いでねえか」
「ああ、かもしれない、それ、鍋のフタだから」
「鍋のフタ!?ひでえモン売っとるだな。じゃ、そのクラリネットを見せえ」
「これ?これはダメだ、僕の大好きなクラリネットだから」
「僕の大好きな、て、商売をするからには、売らねえって法はなかんべえ」
「ふーん。『♪ドとレトミとファとソとラとシの音が出な〜い』けど、いいかい」
「なんだぁ、歌詞の通りってことけ、じゃあ、全然音が出ねえ ってことでねえか。ほんじゃ、そっちの、トランペットを見せえ」
「どれ?」
「その、お前どんの横にある、金管楽器、キンカン楽器!」
「これ?ふーん、じゃこの棒で叩いてみるか。キン、カン、キン、カン、あ、ホントだ、 キンカンって音がするな」
「これ、何するだ、商売モンを叩いて。それじゃあ売り物にならねえでねえか」
「大丈夫、これがホントの『叩き売り』だ」

おあとがよろしいようで・・・。