バンドマン風漫才「クールにいこう」


                   バンドマン風漫才「クールにいこう」


A:いやー、出てきて早々なんやけど、ここ最近うっとうしい天気やね。
B:そやな、もう梅雨に入ったし。
A:え、もう梅雨に入ったん!そんなこととはツユ知らず。
B:古いなー。いまどき、小学生の子供にも無視されるで、そんなシャレ。
A:そやかて、他に言い方があるか、ほな、そんなこととはバイウ(梅雨)知らず、とか、 それとも、そんなこととは北海道を除く日本に降る梅雨前線によってもたらされる6月ご ろの長雨知らず、とか、それとも・・・。
B:わかった、わかった、ツユ知らずでええがな。キミのほうがよっぽどうっとうしいわ。
A:そやけど、今年の夏はもっとうっとうしいで。なんせ、クールポコ、せなアカンし。
B:ちょっと待て。なんで、臼もって杵もって「やっちまったなー!」言わなあかんねん。 それも言うなら、クールビズや。
A:それやがな、みんな言うてるがな、クールビズ。それ、どういう意味なん?
B:知らんで言うてるんかい、あきれたやっちゃ。クールビズ言うんは、節電に努めて、 いろんな工夫でクールにビズ、つまり涼しくビジネスをしよう、ゆうこっちゃ。
A:ほー。ほたら、われわれバンドマンも、なんかクールにビズする方法、考えなアカン な。
B:ま、そやけど、キミにはムリやろな。
A:失礼な。そんなことあらへん。そんなん、いくらでも思いつっきょるがな。
B:ほー、たとえばどんなんや。
A:まずやな、ステージの制服を半そでにする。
B:待て待て。確かに昔、1979年のオイルショックのとき、「省エネルック」ゆうて、半そ での背広ゆうんがあったけど、あんなもん、カッコ悪すぎて、ちっとも流行らへんかった やないか。
A:そこやがな、昔流行らんかったんは、上だけ半そでにしたからや。そやから、わがバ ンドでは下も半ズボンにする。
B:コラ待て。半そでに半ズボン、て、それに蝶ネクタイしてみ、どっかのコメディアン やないか。だいいち、スネ毛出してステージ上がれるか、アホ。
A:それから、靴はやめて穴あきサンダル。
B:穴あきサンダルて、それも言うならクロックスや。
A:そうそう。あれやったら、足でテンポ踏んでも音せえへんし。
B:たしかに音はせえへんけど、バンドマンは昔からエナメル靴て決まってるがな。
A:それから、服装だけではアカン、曲も変えな。
B:ムチャ言いなや。いくらなんでも、曲は涼しくならんやろ。
A:なるがな、「イスラエル」とか「ムーブ」とかやったらええ。
B:アホか、それは1949、1950年に録音され、1957年にリリースされた、マイルス・デ イビスの「クールの誕生」の中の曲やろ。
A:そうや、クール言うからには、涼しいに決まってるやろ。
B:違ゃうがな、クール言うたかて、あれは、その前の、アドリブ重視のホット な「ビ・バップ」に対して、アドリブ控えめで編曲やら楽器の構成に重点を置いたんがカ ッコええさかいクール言うんで、音が涼しいわけやない。
A:そういえば、あの中の曲てどれもアドリブが少のうて、長さも2〜3分の曲ばっかし やし、なんや損した気にならへんか。
B:アホ、損ゆう言い方があるか。あれは、全部いっぺんに聴くと、そう感じるかもしら ん。そやのうて、1曲ずつ別々に聴いてみ、それぞれが魅力いっぱいの曲ばかりや。
A:それから、スーバン(バンス=バンドに入る前に受け取る前借り金)貰ろて、その勢 いで楽器屋に飛び込んで楽器買おてしもたモンは、すぐ返品させてもらう。
B:待ちや、それ、クーリングオフのことやったら、違ごてるで。たしかにクーリングオ フ言うんは、頭を冷やせ、クールになれ、ゆうんで消費者を保護する制度やけど、訪問販 売とか、キャッチセールスとかで不意打ち的に買おたモンに適用されるんやし。自分の意 思で店に行って買おたモンに適用されるわけやないで。
A:それから、メンバー全員、ステージでアホなことする。
B:それ、クールクールパー、ゆうんやろ。
A:あ、わかるか。
B:わからいでか!
A:ほかに、荷物はクール宅急便で送る。
B:そないしょっちゅう、日持ちのせんもん、送ったりせえへん。
A:それから、ステージでは、演奏しながらクールミントガムを噛む。
B:楽器に詰まってしまうわ。
A:そのうえで、バンド部屋では、クーラーをガンガン効かせて休む。
B:アホ、そないなことしたら節電にもナンにもならへんし、だいいち、店から大目玉食 らうわ。
A:かめへんがなー。そんなときはみんなで「涼しーい顔」、しとったらええねん。
B:も、ええ加減にしなさい。