< 熊さん流・ジャズの勉強法「熊さん長短で悩む」>

             熊さん流・ジャズの勉強法「熊さん長短で悩む」


熊:「ねえ大家さん、落語に『長短』ってのがあるだろ。あれ、ちょっと教えてくんねえな」
大:「おいおい、いきなり人の家に上がってあぐらかいてんじゃない。第一、人にものを聞く のに、オスエてくんねえな、って言い草があるか」
熊:「へー、じゃ、なんてんです」
大:「ま、ご存知でしたらお教え願えませんか、とかなんとか、言うもんだ」
熊:「じゃあ、それでいいや。で、いってぇどんなんだい」
大:「凹まねえ野郎だ。そうだな、噺のマクラ(導入部)は、
えー、昔から、気の長い人、気の短い人、いろんな人がいるもんで。
気の長〜い人同士が二人寄るってえと、
「どうです〜、春の旅行会、なんてのを、み〜んなで、やろうと思うんですが〜・・・」
「ああ〜、いいですね〜、で、どこに行きます〜?」
「そうだね〜・・・」
なんて言ってるうちに、秋になっちゃう。
これが、気の短い同士だと、
「あのね、春の旅行会をね」
「いいね」
ってんで、二人でどっかへ出かけちゃったりして・・・
と、こんなマクラのあと、気の長い男が、気の短い男の着物のたもとが燃えているのを、ゆっ くり教えたら、『なんで早く教えないんだ!』って、怒るんで、
『ほーら、そんなに怒るじゃねえか、だから、俺ぁ、教えねえほうがよかった』
ってのがオチだ」
熊:「フフフ、大家さん上手いね、落語家になったらどうだい。でも、なんか違うな」
大:「違う?なにが違うんだ」
熊:「いえね、こないだ隣町のバンドで音階練習をしてたら、長短、がどうのこうの、言われ たんだが。なにかい、音階にも、気の長げえ音階と、気の短けえ音階があんのかい」
大:「おやおや、何かと思ったら。そりゃ熊さん、『長短』違いだ。その人が言うのは長音階と、 短音階のことだ」
熊:「ああ、チョウカイ、って、なんだいそりゃ、おっさん」
大:「おっさんとはなんだ。ま、分かりにくかったらすまないが、怒らずに聞きな」
熊:「いくら俺でも、人にものを教わるのに、怒りゃしねえよ」
大:「そうかい、じゃ言うが。その曲がどういう調性なのか、その大元になる音階、それが、 長音階と短音階だ。調号に♯も♭も付いていない状態で言うと、
長音階は
・ド レ ミ ファ ソ ラ シ ド
短音階には三種類があって、
・自然的短音階(ナチュラルマイナースケール)      ラ シ ド レ ミ ファ ソ ラ
・和声的短音階(ハーモニックマイナースケール)     ラ シ ド レ ミ ファ ♯ソ ラ
・旋律的短音階(メロディックマイナースケール)  上り・ラ シ ド レ ミ ♯ファ ♯ソ ラ
                         下り・ラ ソ ファ ミ レ ド シ ラ
という音の並び。これが、長音階と、短音階だ」
熊:「フーン。短音階ってのは、なんで三つもあるんだ」
大:「それは、コードの時にも話した、導音の関係だな。人間の音感ってのは、半音下の音から 終わりの音に移ると、終わったーって感じがする。長音階の場合、ドの半音下のシが導音 だ。ピアノで ソ ラ シ ド と弾くと、こんな感じだ」
熊:「・・・なーるほど、ちぎる秋ナスビ、終わったように聞こえるな」
大:「ところが、自然的短音階の場合、ソとラの間が全音だから ミ ファ ソ ラ と弾くと、 なんかスッキリしない」
熊:「・・・そうかい、俺ぁ好きだけど、確かに、終わった感、ってのは、うすいな」
大:「それで、前のソを♯にして、ラとの間が半音になる音階を作った。それが、和声的短音 階だ」
熊:「どれどれ ミ ファ ♯ソ ラ・・・あのね大家さん、終わった感じはするが、これってな んか、エキゾチックってえか、妙な雰囲気がしねえかい」
大:「それは、ファと♯ソの間が広くなったからだ。だから今度は、ファも♯にして、メロデ ィックに聞こえる音階を作った。それが、旋律的短音階だ」
熊:「えーっと、ミ ♯ファ ♯ソ ラ・・・あ、確かに、さっきよりメロデックに聞こえるな」
大:「ところが、そのまま下りを、ラ ♯ソ ♯ファ ミとやると、長調の、ド シ ラ ソみたい に聞こえて、曲の調性がゴッチャになる、それで、下りは、ファもソも♯は付けないこと にした」
熊:「ふーん。それが、長音階と、短音階ね。で、それがなんだってんです?」
大:「たとえば、アドリブをする場合、コードの音だけではなく、曲の基本的な音階からさ らに派生して生まれる、いろんなスケールを使う」
熊:「派生して生まれる、ってえと」
大:「たとえば、長調のDmなら、レミファソラシドレとか、短調のDmなら、レミファ♯ソ ラシドレ、とか。それらが、すぐに出てくるように、普段から音階練習をしておくことが 大事だ、ということだ」
熊:「なんだ、結局、練習しろって話か。だったら、ゴチャゴチャ言わずに、はなから、音 階練習をしろ、って言やいいじゃねえか、このノンビリ大家!」
大:「ほーら、そんなに怒るじゃねえか、だから、俺ぁ、教えねえほうがよかった」