初めて文楽を見た日

北九州市の練習場を借りて練習をしていたら、「文楽・北九州戸畑公演」のポスターが目に入った。 文楽か〜、落語じゃよく出てくるんだが、一度も見たことないな・・・よっしゃ、仕事 サボって、行ってみたろ。
当日の会場は満席。着飾ったおばさんに、したり顔のじいさんに、「戸畑は初めてなんだけど、会場 はどこだろ?」と入り口正面で聞いているおばさんたちなど。建物がモダンなわりに、客はごった煮・・・。 そのうち、ブザーが鳴ると、前説が出てきて面白く解説をしてくれる(地方だから、だろうな)。

演目は「艶容女舞衣(はですがたおんなまいぎぬ)・酒屋の段」、いよいよ文楽初体験。

期待と、「分かるかな」という不安と、半々で待っていると、まずは、丁稚の軽〜いボケから。はー、 悲劇のつかみにギャグなんだ!と笑ったら、いっぱつで不安は消えて、少しずつストーリーに引き込まれて いく。そのうち、「今頃は半七様、どこにどうして〜」というセリフ。ああ、あの有名なセリフは この物語なのか、と感心したり、親子の情にホロリとしたり、知らず知らずに、物語に没頭していく。

とにかく感心するのは、太夫の語り口の巧妙なこと。グイグイ押すかと思うと、こちらが熱したのを 見透かして、スーッと力を抜く。男に女、大人に子供、一人の太夫が、笑わせ、泣かせ、会場中の客の 心を自由自在に操っていく。その語りを見事に装飾していく三味線、舞台では、いつ の間にか操っている人間が見えなくり、人形がひとりでに動き出している・・・あっという 間に、2時間が過ぎていった。

ふと気がついた。これって、現在のエンターテイメントが目指しているものじゃない? いい場面では拍手し、おかしいと笑い、臆面もなくハンカチで涙を拭く、形式ばらない楽しみ。 それを、ありったけの技術と演出で客に提供する、芸能の世界(芸術、じゃなくて芸能)。 その原点、お手本、を見たような気がする。−−かくて、文楽初体験は、大成功のうちに終了−−
ホント、仕事サボって来て、よかった!