<よいこの音楽べんきょう室・パート4>

             <アドリブ奏者はどこを見ているの?>

「ねえ、先生、こないだテレビでね、パソコンのキーボードを全然見ないで、もの凄い速 さで打ってる人、見たよ!」

ああ、あれはね、ブラインドタッチって言うのよ。指をホームポジションっていう決ま ったキーに置いといてそれを基点して打つ、ってやり方なの。どの指がどのキーを打つか 担当を決めてあるから、速く間違いなく打てるのね。ブラインド(盲目)っていう言葉を 嫌ってタッチタイピングという呼び方もあるわ。中国語では『盲打』って言うんだって」

「ふーん。先生も、ブラインドタッチって、出来るの?」

(いきなり人の弱点を突いてきやがったな)そりゃ先生だって、少しぐらいは出来るわよ。

「あれー、そうだっけ。昨日、職員室でパソコン打ってるの見たけど、人差し指2本で打 ってなかった?」

(てめえ知ってて聞いてんのか!)ああ、あれはね、心にゆとりがある時は、ああやって 優雅に打つこともあるの。でも、ブラインドタッチで肝心なのは、速く打つことより、キ ーを意識しないで打つことなのよ。

「(おやおや、またいつもの屁理屈かい)ねえ、それって、どうゆうこと?」

つまりね、心に浮かんだ文章を打つ時に、どのキーがどの文字か、なんてことを意識しな いで、心の文章が直接キーボードに伝わるような感じでキーを打つ、それがブ ラインドタッチの極意なの。

「(出来もせんのに、極意なんてよーゆーわ)ふーん、それって、人と道具が一体化してる、 ってことかな」

(生意気にいっちょ前言うやんけ)偉いわねー、そういうこと。ただキーを見ないで打て るだけじゃなくて、自分の感覚とキーボードが一体化する、それが大切なのね。そして、 それは、ほかのいろんなことでも大切なことなの。

「(ほーら、また話がそれて長くなるぞ)へー、ほかのことっていうと?」

たとえば魚釣りの時は、人と釣り竿、卓球やテニスの時は、人とラケット、が一体化して ないと、魚やボールを自由にコントロールできないわ。

「ほかには?」

(思いつきでゆうとんじゃ、そうスラスラ出て来るか!)そうね、楽器を演奏する時の、 人と楽器、なんかもそうね。

「へー、楽器を演奏する時も、そうなの?」

そうよ、例えば、ジャズでアドリブをやる時、ピアノを弾く人は、鍵盤なんて見てないし、 ましてや、今から何を弾こうか、なんて考えて弾いてたら、とてもじゃないけど、曲のテ ンポに着いていけないわ。心に浮かんだアドリブがそのまま指を通して鍵盤に伝わってい るからこそ、速いフレーズや心にしみるフレーズが弾けるのね。

「ふーん、じゃさぁ、トランペットの人とかも?目の前にピストン(音を変化させるバルブ) があるけど、あれって、見てないの」

そうね。アドリブを演奏してる時は、ピストンじゃなくて、しいて言えば、その先の空間 を見てるっていうか、瞑想状態になつているというか。目をつぶってもいいんだけど、つ まずいて転んじゃうといけないから、とりあえず開けとく、ってとこかしらね。

「でもさ、じゃ、トロンボーンは?目、開けてなかったら、スライドがどの位置にあるか、 分かんないじゃないの?」

(いちいちうっせえなー)それはトロンボーンも同じよ。手の延ばし具合でスライドが どの位置にあるかってのは分かるの。だから、演奏者は、心に浮かんだフレーズを手に伝え ることに全神経を集中してる、ってわけ。

「へー、そうなんだ。それにしても、人と道具が一体化するって、大変なんだろうね」

そうよ、だから、そうなれるように、みんな頑張っていっぱい練習してるのよ。

「じゃ、先生も、早くブラインドタッチが出来るように、頑張らないとね」

(余計なお世話じゃ!)あなたも、心と鉛筆が一体化して、テストでいい点数が取れるよ うに、頑張ってね(ま、無理だろうけどね、ヒッヒッヒ)。
じゃ、今日の「よいこの音楽勉強室」はここまで。バイバイ、まったねー。