トロンボーンの経験した矛盾の時代
「トロンボーンってCですよね」「え、B♭でしょ」という話を、いまだに耳にします。
楽器の造りはB♭、記譜はC、そこらへんが混乱の根源のようです。

トロンボーンは1ポジション(トランペットの開放)がB♭の楽器です。しかし、 記譜では6ポジション(トランペットの1・3)をCとし、ドとしています。 これによりトロンボーンは実音のC調楽器となり、 同じ楽譜でピアノと合奏もできます。

トランペットでは開放がド、しかし実音はB♭。1音上げないとピアノとの合奏は 出来ません。この差を無くそうとしたのでしょうか。しかし、 これによって混乱が生じたことは間違いありません。

さらな不幸なことに、私達の世代は過渡期で、私のいた田舎の学校では、 満足な指導者もいなかったため、B♭楽器として覚え、 低音Cの楽譜を「♭を2つ消して考える」というデタラメな読み方を習ったのです。

おかげで、トランペットの楽譜はそのまま吹けるのですが、コードネームは1度 違うためアドリブで混乱してしまいます。これを矯正するのにムダな労力を費や しました。

また、同様にC楽器とされたユーホニウムにも痛手です。 トランペットと同じ作りでありながら1・3をドとする低音C楽器になったため、 トランペットのジャズ教則本は使えません。かといって、 構造が違うトロンボーンの教則本も使いづらい。 なかには階名はB♭、音名はCで読むという、とんでもない教則本が出たりしました。

今はトロンボーンもユーホニウムもC楽器に落ち着いていますが、 あんな混乱は私達の世代だけでいい。若い世代の人には、 音楽本来の目的にエネルギーを向けてほしいものです。