バイきんぐ風コント『バンドマン志願』


                  バイきんぐ風コント『バンドマン志願』

(ステージの照明点灯。ステージにAとBの男が二人、一人はイスに腰かけ、一人は立っている)

A:きみかね、電話で、うちのバンドのボーヤになりたいって、言ってたのは。
B:坊やなんて、照れるじゃないっスか。ぼく、もう30越してるんで、おじさん、でイイっす よ。
A:あのね、きみがおじさんだってことは、1キロ先からでも判るよ〜。いいかね、ハンドでは、見習いの ことをボーヤと呼ぶんだよ。だいたいきみ、ボーヤ希望なのに、メンバーより遅れて来る なんて、どういうことかね。
B:はあ、彼女が、なかなか放してくれなかったもんで。
A:正直だねーきみは〜!たいていは、道路が渋滞して、とか言うもんだがね。それよ り、きみはここがどこだか、分かってるのかね。
B:どこって、ここ、臭くて汚〜い、バンド部屋ですけど。
A:きみに言われたくないね〜、確かに、臭くて汚いけど。
B:大丈夫です、ぼく、そんなの気にしないタイプっスから。
A:こっちが気にするんだよ。そうじゃなくて〜、そのバンド部屋で、いったい何をして るかと、きいてるんだよ。
B:え、ストーブの上で肉を焼いてますが、見えてないんスか。
A:見えてるよ〜、私の人生始まって以来ぐらい、はっきり見えてるねぇ!なぜなら、ボ ーヤ希望のきみがイスに座って、バンマスの僕が立ってるからだよ!そうじゃなくてだ ね、初めて来たバンド部屋で、よくストーブの上で肉を焼けるな〜と、言ってるんだよ。それにだね、な んでここに肉があるのか、その疑問が、まるで世界の七不思議みたいに、ぼくの頭を駆け 巡っているよ!
B:ああこれ、そこのスーパーで買ったんです。
A:たいした度胸だね〜!今、僕の血圧は測定不能なぐらい上がっているよ!みんなが演 奏している間、ボーヤ希望のきみは、ステージ横で見学もしないで、スーパーに肉を買いに行って、ストーブで肉を焼い てるわけだね〜。
B:ハイ、よく、肉食系男子って言われます。
A:きみは、肉食系男子って意味を、完全に取り違えているね〜!ぼくはだんだん、きみ が好きになってきたよ。ところで、きみは楽器は、何が出来るんだね。
B:(♪ピュ〜、ピュ〜、)
A:バンマスの僕に向って、それはなんのマネかなぁ。
B:口笛が吹けます。
A:その程度の口笛で、よくバンドマンになろうと思ったね〜!感心を通り越して、ぼくは きみに愛さえ、感じ始めたよ。
B:あと、リコーダーも吹けます。小学校のころ、バンマスやってました。
A:ほう、きみの小学校にはバンマスがいたのかい、すごい小学校だね。いいかね、キャバレー のバンドマンになりたかったら、ピアノ、ベース、ドラム、サックス、トランペット、ト ロンボーンのうちの、どれかが出来なきゃいけないんだよ。まさか、こんなことまで説明 するとは、思いもしなかったな〜、ぼくは、ますますきみが好きになってきたよ。
B:じゃあ、ピアノか、ベースか、ドラム、やりたいです。
A:じゃあ、って簡単に言うね〜!その三つはリズム楽器といって、バンド全体のリズム をリードする、一番難しいパートなんだよ。きみは、なんでそれを選んだのかなあ。
B:なんか、ピアノと、ベースと、ドラムなら、焼肉食いながらでも出来そうだし。
A:やっぱり焼肉かい!きみは、ステージで演奏中にも、焼肉を食うつもりなんだね、素 晴らしいよ!その食い意地には完敗だよ!もう、ぼくは完全にきみを雇う気だよ!
B:ありがとうございます・・・あ、すみません、携帯なんで。『もしもし、あ、そうです か。雇ってもらえるんですか、わかりました。じゃ、今からうかがいます』。すみません、 別のバンドが雇ってくれるそうなんで、ぼく、そっちに行きます。
A:待ちなさい、ぼくは完全にきみを雇う気になっているんだよ!
B:でも、ぼく、ボーヤの修行、出来そうもないし。
A:正メンバーだよ!!正メンバーとして、きみを雇おうじゃないか!
B:でも、楽器、できないし。
A:口笛でいいよ!!なんなら、リコーダーでもオーケーだよ!!
B:でも、バンドマンって、初めはいびられたりして、大変そうだし。
A:バンマスだよ!明日から、きみがこのバンドのバンマスだ!お願いだから、このバン ドのバンマスになってくれないかね!おい、待ちなさい、これだけ頼んでいるのに、きみ は、そのバンドに行くつもりなのかね!!
B:いや、焼肉のタレを買いに。

(ステージが暗転)