バンドマン風「悪魔の辞典<み>」
<み>

みいらとりがみいらになる【木乃伊取りが木乃伊になる】
飲屋にいるバンマスを呼びに行った者や、他のバンドにパリヒ(スカウト)に行った者や、 エジプトに行った吉村作治先生が、行ったきり戻って来ないこと。

みえ【見栄】
金でつった美人、上と下だけが1万円札で中身は千円札の札束、シークレットブーツ、 出来ないのに買った輸入楽譜、燃費が悪くて乗らない高級車、バイアグラ、何が書いてあるのか 分からないのに置いてある経済新聞、似合わない誂えの服、クイズ番組で答が 出た後の「ほら、やっぱりだ」のひと言、など、バンドマンがバンドマンらしくある為の、 虚構の数々。

みかけだおし【見かけ倒し】
バンドマンの得意な、相撲の技のひとつ。髭を生やしたり派手な服装をしてネコ騙しを かけ、下手(したて)なのに上手(うわて)と見せかけ、バンドの懐にもぐり込み、 じっくり腰を据えた後、じわじわと寄(酔)って、最後に前借りを踏み倒す、 という、高度な連続技。

みかんばこ【蜜柑箱】
以前は苦学生が机や卓袱(ちゃぶ)台として利用し、最近では選挙演説の踏み台としても 利用される箱。

みぎかたあがり【右肩上がり】
業績のいい店のマネージャーさんが、肩で風を切って歩く時の姿勢。

みぎもひだりもわからない【右も左も分からない】
「国産車でもアメ車でも、何でもいいから、車が欲しい!」と言っている、免許取り立ての バンドマン。

みきりはっしゃ【見切り発車】
ショーマネージャーから「今日のショー、大丈夫?」と聞かれた時、「なんとかなります」と 答えた、バンマスの心理状況。

みくだりはん【三行り半】
江戸時代の「離縁状」の俗称。以下の例のように、内容を三行半で書く習俗があった ことから、こう呼ばれる。
<例>
   離別一札の事
一、今般双方勝手合を以及離
 縁 然ル上者其元儀 何方縁組
  いたし候共 私方に二心無
  依之離別一札如件

(読み下し)
離別一札のこと。
一つ、今般双方勝手合を以て離縁に及び、
然る上は其の元儀、何方に縁組み
致し候とも、私方に二心無く、
これにより離別一札くだんの如し。

(意訳)
これは離別(縁)状です。
今度、双方で協議して、離縁することにしました。
だから、今後あなたが誰と再婚しようと、
私はかまいませんし、考えが変わることもありません。
この書類をもって離別状と致します。

ドロドロの離婚劇を繰り広げるバンドマンや、くどくどしいエッセイを書いているこの欄の 筆者に読ませたい、簡素で潔い文章。

みこみがある【見込みがある】
バンマスが新人の奏者に対してよく使う、「使いものにならない」の丁寧な言い方。

みざるきかざるいわざる【見ざる聞かざる言わざる】
そつのないバンドマンがとる、その店で長く働くための模範的行動。

みじんこ【ミジンコ】
サックス奏者・坂田明氏が飼っている微小生物。「飼い主とペットの顔は似る」という好例。

みずきよければうおすまず【水清ければ魚棲まず】
魚も水商売も、少々水が濁っている方が快適だ、ということの裏返しの表現。
しかし、子供のころ、この言葉を信じて、縁日で買った金魚を濁った川に放したら、あっと いうまに腹を出して死んでしまった。責任者出て来〜い!

みぜにをきる【身銭を切る】
リハで食事が出なかったとき、文句を言うメンバーに、バンマスが泣く泣く自分の金で 安いラーメンを食べさせるという、出血大サービスのこと。

みっかてんか【三日天下】
フロアマネージャーが風邪で3日間休んだ時の、バンマスの気分。

みっともない【見っとも無い】
1)余裕のない人間がみせる、ぶざまな態度や行動。
2)余裕のあるバンドマンがみせる、ぶざまな態度や行動。バンドマンは余裕が ない時の方が、まとも。

みのるほどこうべをたれるいなほかな【実るほど頭を垂れる稲穂かな】
会社が不祥事を起こした際、大会社の社長ほど、謝罪会見の場で深々と頭を下げ(てみせ)る、 ということ。

みーはー【ミーハー】
1)若い女性に「みーちゃん、はーちゃん」という名前が多いことから、軽率な若者を指す言葉。
2)ドレミファを、ドレミハ、と言う、軽率なバンマスを指す言葉。
3)自分のことを「ミーは〜」、と言う、軽率なバンドマンを指す言葉。

みみどしま【耳年増】
ませたことを言うわりには、子供はへそから生まれると思っている女の子。

みもふたもない【身も蓋もない】
「バンマス、ちゃんと楽譜書いてくださいよ。これ、ミの音が二つも無いじゃん!」 「おいおい、そういう言い方をしたら・・・」

みやげ【土産】
ニュースカイラークメンバーが、ビータ(演奏旅行)先で家族用に買ったり、この世 で閻魔大王用に買ったりしている、訪問した先の特産物。

みゅーと【ミュート】
楽器に取り付ける消音装置。音質を変化させるためや、ご近所に迷惑をかけないためや、 バンマスに下手な練習を聞かれないためや、女房・子供に家を出て行かれないためや、 自分の音を聞きたくない時、に使用する。

みょうがやど【茗荷宿】
茗荷を食べると物忘れしやすい、という俗説をネタにした落語。
<内容>
客がさっぱり来ないという、夫婦で営む町外れの宿屋。そこへ珍しく客が来た。しかも、その 客が帳場に大金を預けたから、さあ大変!なんとかその金を手に入れようともくろむ夫婦 が思いついたのが、茗荷攻め。
「何もございませんが」と出てきたのは茗荷ご飯、茗荷のてんぷら、茗荷の漬物に、お汁の 実も茗荷。初めは珍しがっていた客も、「もういいや、頭がボーッとしてきた」と、寝て しまう。
翌朝、案の定、客は金を受け取るのを忘れて出立する。しめた!、と思っていたら、しばらくして 「大変、忘れ物をした!」と戻って来て、金を受け取って行ってしまった。
「あーあ、うまくいかねえもんだな。でも、何か忘れて行かなかったか」「そういえば、 何か忘れたような・・・あ、お前さん!」「どうした?!」「あの客、宿賃払うの忘れて行った!」
<結論>
人を陥れるなら大悪党になれ(そうでなければ正直者でいろ)という、小悪党のバンドマンにとって、 大変ためになる落語。

みようみまね【見様見真似】
ジャズを習得する際の、バンドマン御用達の学習方法。学校でレッスンを受けたり、高名な プレーヤーについて習得した場合は、音楽家とか、ジャズプレーヤーという名称で呼ばれ、 「バンドマン」という崇高な呼び名は与えられない。

みをけずるおもい【身を削る思い】
かつお節にされた鰹や、短い鉛筆を削っている窓際社員や、貯金を削って生活して いるバンドマンの妻や、寝食の時間を削ってこのエッセイを書いている筆者、のような者の心境。