SF小説「偉大なる雑音」


真の暗闇の中で、2人は身を寄せ合っておし黙っていた。「2人」と呼べるかどうかは わからない。しかし、「2匹」と呼ぷのは失礼のような気がする。なにしろ彼らは人類 の遠いご先祖様にあたるのだから。

彼らが、自分の手さえ見えない真っ暗闇にいるのには、わけがあった。彼らは、自分たち の仲間のほとんどを食い尽くした肉食獣から逃れて、洞窟の奥に身を寄せていたのだ。 自分たちが食われたら、自分たちの「種」は絶えてしまう、なんとしても生き延びなけ れば・・・動物的な本能で、2人はそれを感じていた。

言葉を持たない彼らは、不安な心を表現するすべもなく、ただただ、夜が明けるのを待 ちわびた。そして、恐怖のあまり狂気が暴走する寸前に、太古の森に、やっと、うす明かり が戻ってきた。「ウウウ・・」、安堵と疲れの入り交じった低い唸り声を発しながら、 2人は洞窟の出口に向かった。

しかし、次の瞬間、彼らは凍りついた。肉食獣は、洞窟の入り口で、獲物が出て来るのを 待ち構えていたのだ。

恐怖のため立ちすくんでいる獲物に、その獣は、ジリ、ジリ、と間合いを詰めてくる。それ は、2匹のうち、どっちから先に食うかの選択を、楽しんでいるようにも思えた。そし て、うまそうな方の目星がついたとみえ、ゆっくり腰をかがめ、飛び掛かる体勢に入った。

その時、突然、不思議なことが起こった。火山の噴火や雷鳴よりも大きな「音」が、洞窟 の中に響き渡ったのだ。

ガガガ〜ン!
ギョヨ〜ン!!
グワワ〜ン!!!
ゲゲゲ〜ン!!!!
ゴゴゴ〜ン!!!!!

2人はとっさに両手で耳を覆った。「音」は一方で、それが出来ない獣の脳天を打ち砕き、もがき 苦しむ体を貫いて、響き続けた・・・やがて「音」が消えた時、獣は一度ピクリと痙攣したあと、 全く動かなくなった。

何が起こったのかわからない、が、自分たちを襲う恐怖の対象が無くなったこと は理解できた。
「ウウウ!」
「ウウウ!」
2人は、生まれて初めての「喜び」という感情を、肩を抱いて分かち合った。


「ねえ、このアンプ、なんだか変だよ。途中で、音、出なくなっちゃうもん。 ってゆうか、なんか、どっか遠くに音が飛んでいっちゃってる、って感じ。」
「やっぱ、安物かなー?ヘンな爺さんが、タダでいいって言うから、もらったけど。」
「だいたい『異次元ワープアンプ・アダムとイブ』なんて、ネーミングもダサいし、 『雑音は人類を救う』なんて、貼ってあるステッカーが、意味わかんねー!」