新聞記事から <モートンの日記発見さる!>

バンド業界新聞 「日刊ドンバ」  2009年4月1日付

<モートンの日記発見さる!>

現代のジャズやポップスを演奏する際に、ハーモニーの表記として欠かせない「コード記号」 を考案した、ニューオリンズ生まれの音楽家ジェリー・ロール・モートン(1885〜1941)の 日記が発見されたと、ニューオリンズのメディアが伝えた。

現地メディアによると、日記はニューオリンズの古本屋で発見されたとのこと。古い楽譜 を収集しているマニアが、書き古した楽譜の裏に日付ごとに記事が記録してあるのを見つけ、 誰かの日記ではないかと考えメディアに持ち込んだ。
メディア側で内容を検証した結果、モートンの日記であることが判明したとのこと。古い楽 譜の束の中に紛れ込んでいたため、今まで発見されなかったものと思われる。

ジェリー・ロール・モートンは、ジャズの創成期であるニューオリンズ・ジャズの頃の、作 曲家兼ピアニスト。トロンボーン、ギター、ハーモニカ、ドラムなどの楽器もこなしたマルチ タレントだったことで知られる。
多才な音楽家だったにもかかわらず、1902年頃に「ジャズを発明したのは俺だ」と公言したこと が、当時の音楽家や評論家から反感を買い「ホラ吹きモートン」と呼ばれるようになった。 また、デキシーランドジャズナンバーとして名高い「タイガー・ラグ」の作曲者とされて いたが、後にニック・ラロッカの作曲であることが判明して、さらに音楽家としての評判 が低下した。
今回の発見により、モートンの業績が見直されるのではないかと、ジャズ関係者の間で 関心が高まっている。

以下は公表された日記の一部である。

○月○日 晴れ
今日も仕事は楽だった。売春宿のピアニストというのも捨てたもんじゃない。バンドのほ かの連中は計算が苦手だから、店も、女と客との金の交渉は俺まかせ。おかげでたんまり稼がせ てもらった。
それはそうと、コルネットやクラリネットの奴らにハーモニーのことを教えてやらないと いけないが、どうしたもんか。ここはド・ミ・ソのハーモニーだ、ここはファ・ラ・ドだ、 いやド・ファ・ラでもいいんだ、なんて言ってたら日が暮れちまう。なんかいい方法はな いかな。

○月○日 曇り
そうだ、ハーモニーに使う音は下から順に一つ飛ばしで重ねることにして、例えばド・ミ・ ソの構成音はC・E・Gだから、「C」って言ったらそれだけでC・E・Gのことだとする、 そして重ねる順番は自由でいいと、決めちまえばいいんだ。俺って頭い〜い。この方法を みんなに広めてやりゃ、いちいち楽譜に音符を書かなくてもいい。

○月○日 曇り
次は、レ・ファ・ラはD・F・Aだから「D」だと・・・ん、待てよ?「C」がメジャー な明るい響きなのに比べ、D・F・Aはマイナーな暗い響きがするな。なんでだ?
わかった、鍵盤で見ると、ドとミの間は黒鍵が2つあって広いが、ミとソの間は黒鍵が1 つで狭い。逆にレ・ファ・ラの場合は、レとファが狭くて、ファとラが広い、こいつのせ いだ。ほかのも試してみよう・・・やっぱりそうだ。
よし、この広い幅の方を長三度、狭い幅を短三度と呼ぼう。そして、その組合せによって、 響きの名前と、書き方を決めることにしよう。
長三度の上に短三度→メジャー    書き方→C (シー・メジャー、または単にシー)
短三度の上に長三度→マイナー    書き方→Dm(ディー・マイナー)
まてよ、そうすると、ほかにも組合せが出来るな。
シ・レ・ファだと、
短三度の上に短三度→ディミニッシュ 書き方→Bdim(ビー・デミニッシュ)
普通にやってると出てこない組合せだけど、C・E・♯Gってのも作っとくか。
長三度の上に長三度→オーグメント  書き方→Gaug(ジー・オーグメント)

出来た!あとはこれを基準にして、ほかも同じように考えればいい。例えば、同じCの重ねでも、 C・♭E・Gなら、短三度の上に長三度だから、Cmってな具合だ。これで、いちいち楽譜に 音符を書かなくて済むってもんだ。
よし、このやり方になんか名前を付けよう。そうだな、音楽的に高度なことをやるんだか ら、これを「コード」と呼ぶことにしよう。こりゃ、特許が取れるぞ、ヒッヒッヒ。

○月○日 雨
世間の奴ら、俺様をなんだと思ってやがる!
古くからのブルースと、ここで始まったラグタイムを組み合わせた音楽を広めたのは、俺たち 売春宿のピアニストじゃないか。それをジャズって呼ぶんだったら、その代表格が俺様 なんだから、「俺がジャズの発明者だ」と言って何が悪い。それを「ホラ吹きモートン」 なんて呼びやがって。俺が考え出した「コード」のおかげで、お前らどんだけ助かってる と思ってんだ。
それから、ずっと先の時代で音楽をやる野郎どもも、コードなんて便利なものを発明した のが俺様だってことを忘れて演奏したらバチが当たるぞ、よ〜く覚えとけー。


バンド業界新聞 「日刊ドンバ」  2009年4月2日付

<モートンの日記はニセ物!>

昨日の<モートンの日記発見さる!>の記事で紹介された日記は、実は真赤なニセ物であ ることが判明したと、ニューオリスンズのメディアが伝えた。

現地メディアによると、記事の中で紹介された日記を読んだ読者から、日記の中にある『音 楽的に高度なことをやるんだから、これを「コード」と呼ぶ』というのは、日本のオ ヤジギャグで、当時のニューオリンズの文章ではありえない、という指摘が多数なさ れたとのこと。

そのためメディアが再調査したところ、日記は楽譜マニアと名乗る人物が謝礼金目当てに 捏造したものと判明、メディアは翌日の一面に簡単なお詫び広告を出した。しかし、あまり にもずさんな事前調査やその後の対応に、メディアの信用は失墜していることのこと。


<「日刊ドンバ」編集部からのコメント>
この件に関して、当「日刊ドンバ」は、騙された人が書いた記事をそのまま掲載しただけで、 何も悪くありません。こんなことは日本のメディアでもよくあること。皆さんも、他人から の情報を鵜呑みにしないで、正しい情報は自分で直接見聞きして手に入れましょう。