<熊さん流・ジャズの練習法(B♭楽器って?)>


熊:「大家さん、てーへんだ、てーへん・・・かける高さ、割る2ってのは、なんだっけ?」
大:「朝っぱらから騒々しいやつだ。起きてて寝ぼけてんのか」
熊:「そうじゃねえよ、昨日の練習で気がついたんだが、俺の買ったテナーサックス、とん でもねえ楽器だった」
大:「とんでもない?純金製だったのか」
熊:「純金?なら、大家さんに言いやしねえ。そうじゃなくて、音が変なんだ」
大:「そりゃ、楽器のせいじゃなくて、熊さんのせいだろう」
熊:「そう、俺の出す音は象のいびき、って、そうじゃなくて、音が合わねえんだよ」
大:「というと?」
熊:「だからよ、ピアノといっしょに練習しようと思って音を出したら、ウッ、ウッ・・」
大:「ナンだ、泣いてんのか」
熊:「いや、腹が減った。なんか食うもんはねえかな」

大:「あきれた奴だ。どうせ、自分のドとピアノのドが合わない、ってんだろう」
熊:「あ、知ってるとこをみると、大家さん、楽器屋とグルだな」
大:「グルってやつがあるか。しかし、今ごろ気がついたのか。熊さんの吹いてるテナーサ ックスってのは、B♭楽器なんだ」
熊:「ビー、フラット、蜂が平ら?なんでえ、そりゃ」
大:「B♭楽器と言うのは、その楽器のドの音がB♭、つまりピアノのシの半音 下がりの音、でもともと作られてる楽器のことだ。トランペットもトロンボーンも、クラリネット も、造りはB♭楽器だ。」
熊:「え〜っ、なんてことしゃがんでえ、じゃ、そいつら全部、欠陥商品じゃねえか。こっちがドを 吹いてんのに、ピアノはシの半音下がり、ってんじゃ、おんなじ楽譜をいっしょに演奏で きねえだろ。え、いったい政治家は何をやってんだ」
大:「政治家のせいじゃない。楽器の進化の過程で音程や音色の関係から、B♭楽器が残っ たんだ」
熊:「じゃ、ピアノとおんなじ音が出せる楽器ってのは、作ってねえのかい」
大:「いや、トランペットにもトロンボーンにも、C管といって、あるにはあるが、音程が悪かっ たり、妙に音色がキンキンしたりして、あまり一般的じゃない」

熊:「ひでえ話だ。じゃ、ピアノといっしょに練習するには、どうしたらいいんで」
大:「ピアノ譜が付いてる曲集も売ってあるし、自分で楽譜を書き直してもいい」
熊:「どうやるんで?」
大:「まず、ピアノ譜の調号を2つ♯側にずらす、つまり♯が2つなら4つに、♭が3つだ ったら♭1つに書き直す。次に、音符を1度上げて書き写せばいい、ドだったらレ、という具合だ。 ただし、ナチュラルの臨時記号があったら、元の楽譜から判断して♯か♭に書き直す」
熊:「面倒くせえな、ほかにはねえのかい」
大:「ピアノ譜を階名で読んで、それを移調して書き写す方法もあるが、途中で曲が転調し ていると、それもけっこう大変だ。一番簡単なのは、パソコンの楽譜ソフトで書くと、それをパソコン が一発で変換してくれる。が、初めのうちは勉強のためにも、手で書いたほうがいい。プ ロのバンドマンの中には、Cメロというピアノ譜を、その場で読み換える達人もいるがな」
熊:「アルトサックスってのがあるけど、あれは?」
大:「アルトサックスや、バリトンサックスはE♭楽器といって、楽器のドの音が、ピアノの ミの半音下がりの楽器だ。その場合は調号は♯側に3つずらし、音符は短3度下げる、ド はラに、いう具合だ」

熊:「そういや大家さん、さっきトロンボーンもB♭楽器って言ったけど、あいつら、ピア ノといっしょに吹いてたぜ。ありゃ、どうなってんだよ、おう」
大:「なにが、おうだ。トロンボーンやユーフォニュームは、楽器の造りはB♭楽器なんだ が、ピアノのドの位置つまり、B♭楽器のレの場所を、のっけからここがドだ、って決め て、それを基準に楽器の音階も決めたんだ。だからC楽器ということで、楽譜もそう書いてある。 このことは、2001年12月25日の『トロンボーンの経験した矛盾の時代』にも書いてあるな」
熊:「ちくしょう、うめえことやりやがったな。じゃ、俺もそうやればよかった」
大:「いや、テナーサックスはB♭楽器として楽譜が書いてあるから、アドリブでコードを読む ときなんかに、そんなだと、頭ん中がゴチャゴチャになってしまう。ま、熊さんはやめといたほうがいいな」

熊:「ふーん。じゃ、とりあえず、帰って楽譜の書き換えでもやってみるか」
大:「おいおい熊さん、今日はスーパーのアルバイトの日じゃなかったのか」
熊:「大丈夫、ちゃんと、休みの断りを入れるよ」
大:「ほう、なんて」
熊:「『店長(転調)、胃腸(移調)が大変なんです』」