今年の年賀状川柳 「巳、蛇」


                   今年の年賀状川柳 「巳、蛇」


皆さんこんにちは。
おなじみ、年初めの教養の玉手箱、バンドマン川柳講座のお時間です。
解説してくださる講師はおなじみ、萬同萬(ばん・どうまん)先生です。では先生、お 願いいたします。

皆さんこんにちは、上から読んでも下から読んでも、萬同萬です。
今回は、私の作った今年の干支「巳、蛇」をテーマにした年賀状川柳をご紹介しながら、川柳 についてお勉強しましょう。

【 スサノオも 退治する間に ちょっと呑み 】
ではさっそくこの川柳を例にして、川柳を作るポイント、というのを考えてみることに しましょう。

ポイント1)状況を表すのに最低限の言葉を用いる
川柳は基本的に五、七、五の17文字しかありませんから、状況を表すのに文字数の制限があります。説明し過ぎ ない、判る人には判る、ただし、言葉足らずになったり、独り善がりに陥らない、とい うギリギリの言葉を探して用います。
この句では、スサノオ、退治、の二つで、たいていの人が、古事記の神様須佐之男命(ス サノオノミコト)の八俣の大蛇(ヤマタノオロチ)退治、という状況を想像出来るという狙いがあります。

ポイント2)うがった見方を創作して付け加える
そのうえで、作者の新しい視点、斜(ハス)に見た視線、うがった見方、皮肉った考え方など を加えます。スサノオは荒ぶる神だから酒好きだろう、大蛇退治で疲れるから自分でも ちょっと飲んだだろう、というのがそれです。それが「なるほど、面白い!」か、「つ まらん!」かが、秀句か愚句かの分かれ目になります。

ポイント3)川柳独特の句の結びを用いる
川柳では「雷を まねて腹がけ やっとさせ」のように、句の最後を動詞の連用形で止め ることで、川柳独特のうがった感じ、物を斜に見ている、という感じを出すことが行われます。

では、以上の3つポイントを踏まえて「俳風柳多留」の一句を見てみましょう。

【 五右衛門は なまにえの時 一首よみ 】
この句では、
ポイント1)五右衛門、一首よみ、の二つで、石川五右衛門が、釜茹での刑のさいに「石川や 浜の 真砂は尽くるとも 世に盗人の種は尽きまじ」と詠んだ状況を表す
ポイント2)なまにえ、という言葉で、作者のうがちを入れ込む
ポイント3)一首よみ、という動詞の連用形で句を結んで作者の意図を表現している
というように、3つのポイントをうまく押さえて作ってあります。
では、続けて他の句も見てみることにしましょう。

【 年賀の絵 上手く描くほど いやがられ 】
なぜ上手に描いたのにいやがられるのか?十二支のうち、リアルであればあるほど嫌がられ る絵、といえば・・・蛇。つまりこの句は、巳年の年賀状のことを詠んでいる、という 謎かけの句ですね。

【老年(とし)の蛇 肩に貼ってる サロンパス 】
これは、蛇の肩のことを言って、「あ、蛇には肩がなかった」と、作者が『一人ボケツ ッコミ』をやっている、新しい感覚の句です。

【「蛇足」の意 くどくど説くが 蛇足なり 】
【 ヘビの文字 なければ食べたい イチゴかな 】
このように、結句が「なり」や「かな」のように、断定の形をとったり、俳句のような 終わり方をとることもよく見受けられます。
例「 くどかれて あたりを見るは しょうちなり 」

【蛇(じゃ)の口に 泣く子噛ませる 親の愛 】
もちろん、本当に蛇に噛ませているわけではありません。
川柳では、斜(ハス)な見方だけでなく、日常の風景を 誰も気が付かない視線でとらえることを狙った句もあります。この句は、お祭りで 見かける作り物の獅子や蛇の口に、怖がる子供を親が抱きかかえ て頭を入れて健康を願う、という風習を詠んでいます。
例「 寝ていても 団扇のうごく 親心 」

【 呼び名ほど 野暮でないもの 蛇の目傘 】
今主流の野暮なコウモリ傘より、蛇という文字が付いていても、蛇の目傘のほうがよっ ぽど粋だ、という郷愁の句です。このように、句の最後に名詞を持って来て、それに よって状況を断定的に表す、というのも川柳独特の表現です。
例「 たらたらと おさらばいわぬ 女客 」

さて、いくつか句を紹介してきましたが、川柳を作るポイントが少しでも判っていただけまし たでしょうか。皆さんもぜひ、世間を斜めから、逆さから、裏から見て、アクの強い 川柳を詠んでみてください。
では、また来週〜・・・は、ねえよ。

(え、お前の句は駄作ばかりだ?そりゃ、あんたほど世間をハスに見てないからだよ、 フン!)