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耳にタコが出来るとはこの事だ。 入念なメディカルチェックを課せられた後に始末書の提出、更に仕上げとばかりに軍師殿から嫌味ったらしいお説教を長々と聞かされて、セルバンテスは些か食傷気味であった。 …まあ、お説教の大半は適当に聞き流していたのだが。 草間博士の造反と処刑に伴いGR計画は頓挫してしまった。その上GR1は草間大作の身柄と共に国警の保護下に入り、GR2は戦闘不能で現在修復中である。現時点での責任者はセルバンテスであったので、損害の程を鑑みれば確かに始末書を書かざるをえない状況であるし、軍師殿のお説教も尤もである…が、些か疲れてしまった。 こんな日は早く寝てしまうに限る。 欠伸を噛み殺しながらセルバンテスがぞんざいに自室のドアを開けると----アルベルトが待っていた。 「アルベルト!わざわざ来てくれたのかい?嬉しいなぁ!!」 セルバンテスは先程迄の疲れも吹っ飛ぶ、とばかりにアルベルトに抱き着く。 「懐くな!」 邪険にもぱしんと頭をはたかれて、セルバンテスは大袈裟に痛がってみせた。 「酷いなぁ、歓迎しているのに…」 ちらりとアルベルトに上目遣いの視線を送りながら、非難するような言葉を口にする。が、セルバンテスの口元にはいつもの笑みが戻っていた。 少しも悪びれた所のないいつも通りの盟友の姿に、アルベルトは呆れつつも多少安堵する。今回の顛末は流石のセルバンテスでも少々堪えたのではないかと思っていたからである。 「…ふん、変わりはないようではないか」 「おや、心配してくれていたのかい? アルベルトをソファへ促しながら、セルバンテスは少し意外そうに笑った。 「うむ…いや、そう言う訳ではない」 即座に否定するのが、如何にもアルベルトらしい。サイドボードで酒を選びながら、セルバンテスは増々笑みを深くする。 「…が、あの親子の事は結構気に入っていただろう」 「私は可愛いものや綺麗なものが好きだからねぇ」 セルバンテスはこともなげに肯定して、二つのグラスに琥珀色の液体を注ぎ込み、 「まぁ、自分で手を下そうかなって位には気に入っていたよ」 きゅ、と瓶の蓋を閉めてアルベルトに向き直る。 「…そうか」 僅かに眉を寄せるアルベルトに、グラスを差し出しながらセルバンテスはにいっと笑った。 「あぁでも、君の事は殺されても良い位好きだよ?」 「阿呆!」 アルベルトはグラスを受け取りながら柳眉を逆立てる。 「はははっ!つれないなぁ」 「くだらん事を吐かすからだ!」 グラスを握り潰さんばかりのアルベルトに、セルバンテスの笑いは止まらない。 「冗談だよ…折角のルイなんだから味わってお呉れよ?」 「ふん、全くくだらん!」 憤然とグラスに口をつけるアルベルトを見詰めながら、セルバンテスは口の中で呟いた。 ----本気だけどね。 アルベルトには、聞こえなかった。
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