|
午後のロビーはチェックインしようとする人々で溢れている。 賑やかに様々な言語の飛び交う大型国際ホテルのロビーは吹き抜けで、見事な迄に贅沢な花器が中央に設置されていた。その脇のソファに対照的な外見の男が二人、向い合せに座っている。 「…まったく、君程貴族的な男を他に知らんよ。アルベルト」 如何にも惚れ惚れとした様子で、白いクフィーヤの男-----眩惑のセルバンテスは向側のソファに座った黒衣の男に話掛けた。 「くだらん」 一言の元切って捨てる。ちらりとセルバンテスに目線を呉れて、黒衣の男-----衝撃のアルベルトは長い足を組み直すと、再び新聞に目を戻した。 「つれないねぇ?」 予想通りのアルベルトの反応に、くくくと低く笑いを響かせる。 「褒めているのに…」 セルバンテスは髭を弄びながら、再びアルベルトを鑑賞しはじめた。不躾な盟友の視線に僅かに気分を害したアルベルトは、新聞を閉じてじろりとセルバンテスを睨付ける。 「褒め言葉などであるものか。 アルベルトはサイドテーブルに新聞を投げ出して、憮然とした表情を作ってみせた。 「はははっ、そういう考え方もあるねぇ。 苦虫を噛み潰したようなアルベルトを見て、益々セルバンテスは上機嫌だ。 「…そう言う貴様はどうなんだ?」 「私かい?」 セルバンテスは大袈裟な身振りで戯けてみせる。 「こちらもご同様さ。 訝し気な顔をするアルベルトに一つウインクを呉れて、セルバンテスは歯を剥き出して笑った。 「敬虔さは、どれだけ異教徒に血を流させたかで測られるのさ!」 「…なるほどな」 呆れたように溜息をついて、薄く口元に笑いを滲ませる。 「今も昔も同じという事か---」 呟きながら、アルベルトは懐中時計を取り出して時間を確かめた。 「…時間だ」 いつのまにか、すっかり静かになっている。 「既に掌握は済んでいるよ---今度は君の番だ」 静まり返ったロビーにセルバンテスの声が響く。その響きは更に人々の自由を奪っていくようだ。 「いつもながら見事なものだ」 呟いてアルベルトは立ち上がり---振り返りざま衝撃波で周囲一帯を薙ぎ払った。超特大の衝撃波の一撃で、基部を失ったホテルは苦し気なきしみを上げ始める。 「君もね」 一足先にエントランスへ向かったセルバンテスは、くるりと振り返るとアルベルトに微笑み掛けた。
二人の蛮族の裔は、某国の大統領諸共崩れ落ちたホテルを満足げに後にした。
|
|