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真夜中の訪問者

 

突然掛かってきた呼び出しの電話。
言葉少ない相手の様子が心配になった京一は、とりあえず会う事にした。
仕事が遅くまで食い込み、夕食もろくに食べていないが上着を着込み、
愛車のキーを鷲掴みにして玄関を出る…
何処にいるのだと問えばすぐ近くの駐車場にいると言う。

「ったく…いったい何があったって言うんだ」

苛立った感情が声に出る。
この間帰した時は、普通の様子だったはずだ。
大人しく帰ったと思ったら、今回の呼び出し。
アレは確か…。

「一昨日の話じゃねぇか…」

愛車のドアのロックを解除し、乗り込んでエンジンを回す。
静まり返った空間に、低い轟きにも似た音が煩いくらいに響き渡る。
しばらくアイドリングさせてからゆっくりと道路へ出てゆく。
この時間帯に通るクルマなぞありゃしない…
夜中なんだから当然の話なのだが。
通い慣れた峠道を、一気に駆け上る…
すれ違うクルマは、幸いにも一台も無かった。

「…アレか」

一台も見当たらないいつもの駐車場。
水銀灯の下ぼんやりと浮かび上がるのは、赤のコンパクトボディ。
その車体に寄り掛かり、地面を凝視しているのは庄司慎吾…
遠い妙義から、わざわざ越境してやって来る夜中限定のお客さんだ。
傍にクルマを回し隣りのスペースに止めてエンジンを止めた。

「…わりぃ…」
「…本当に思っているんだったら、信じてやる」
「ひっでぇ…(笑)」
「…で?今回は何何だ?」

降りてきた京一に、申し訳なさそうに謝ってきた相手に、京一は無表情で応える。
煙草を取り出し、ライターの火を移す…深く吸い込んで、ゆっくりと吐き出した。
そんな京一に苦笑した慎吾は、再び地面に視線を戻す。
この前は確か…休みだったのに急にキャンセルされて喧嘩して飛び出してきたと言った。
その前は一緒にレース見に行こうって言ったら出掛けるのが嫌だと断られ、
これまた怒り狂って飛び出してきたと泣いた。
その前も確か…もう、止めた。
そう…いつも恋人と喧嘩してはここへやって来る。
今回も、恐らくは同じケースなのだろう。

「また、喧嘩したか」
「…ちげぇよ…」
「…ファミレスにでも行くか」
「…奢り?」
「テメェ…何度目だと思ってやがる」
「5回目」
「…正しくは6回目だ、馬鹿野郎…クルマ、持って来い」
「先導してよ」
「分かっている」

こんな所で話す事でもない…しかし、部屋へ入れる話でもねぇ。
さっさと話だけ聞いて、とっととお帰り願おう。
腹も減っている事だしファミレスにでも移動するか。
ついて来いと言い捨てて、再び愛車に乗り込んだ。
駐車場の入り口に移動して、赤い車体がバックミラーに映るのを確認して道路に滑り出る。
まだ、麓の街中のファミレスは開いているだろう…。
今来た道を一気に駆け下りる…背後に迫る気配を振り切らない程度に、
京一はアクセルを踏み込んだ…。



「は〜〜食った食った!」
「…で?」
「…ん〜〜何を悩んでるのか知らねぇんだけどさ…何も言ってくんねぇの」
「…は…?」
「オレ、本当に恋人だと思ってもらえてんのかな」

目の前に並んだ厖大な皿が綺麗に空になって重ねられている。
残さず食べるのは感心だが、これほど食べて何処に入っているのか分からない程に細いのだ。
満足げに溜め息を吐く慎吾に、とうの昔に食べ終わっていた京一は呆れたように話の続きを促した。
次の瞬間には聞くんじゃ無かったと思い知らされるのを分かっていてはいたのだけれど。
後悔しても、遅いとは言うが。

「…その内に分かるんじゃねぇのか」
「だってよ〜力になりたいと思うじゃねぇか!」
「…それをオレに考えろとでも言いたいのか」
「…そうじゃねぇけど…」
「…とにかく…部屋でまた心配して待ってるんだろ、どうせ」
「…多分…」
「だったら、さっさと帰れ。
この間みたいに部屋で電話越しに喧嘩されちゃ迷惑だ」
「う〜〜〜〜」

悩んでいる内容を訊かれても、分かる訳も無い。
ましてや、どうしたらいいと訊かれても答なぞ持ち合わせてもいない。
部屋でまた心配して待っているであろう相手。
こっちに来ているのだろうと電話してきたのは良いけれど、
迎えに来る来ないで延々喧嘩してくれた記憶も、まだ新しいと来たもんだ。
あの時も、前日徹夜で寝てなかったのでぶち切れそうになったっけ…。

「ここは払ってやる…だから、帰れ」
「…うん…」
「さっさと連れて帰れ…二度と来させるな」
「…え?」

深く溜め息を吐きながら、もう一度帰れと促してやる。
大人しく頷いたのを横目で見、煙草に火を点けながら近付いてきた影に連れて帰れと言い捨る。
驚いて振り向いた慎吾にも、そこにいるのが誰か分かったみたいで。
そこに立っていたのは、その問題の恋人だ。
全く悪びれた様子も見せず飄々としたスタイルを保ったまま、動けない恋人を促している。


「済まない…帰るぞ、慎吾」
「毅…」
「ったく…人に迷惑かけてんじゃねぇよ。
しかも隣りの県にまでやって来て」
「毅が悪いんじゃねぇか」
「あ〜帰ってから続き聞いてやる。さっさと帰るぞ」
「…7回目は払わせるからそのつもりでいろ」
「ケチー!」
「…何か言ったか」
「別に」

目の前でいちゃつかれても迷惑だ…さっさと帰れ。
そんな京一の心の声が聞こえたのか、2人は店から出て行った。
2台仲良く駐車場を出て行くのを脱力感に捕らわれながら聞いていた京一は、
今度こそ眠るために家に帰ろうと、伝票を取り上げてレジに向かうのであった。



マジで二度と来んじゃねぇ…このバカップル。





お後が宜しいようで。



end

蒼樹さん、ありがとうございました〜〜!!(^▽^)
京一+妙義を頂けるとは♪
マジで嬉しいっす〜〜vV

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