東堂幼稚園の一日

 キキキィィーーーー!!

「いっちばーん!!」

 三輪車のブレーキを思いっきり握って、幼稚園の建物にぶつからんばかりに止まった、智幸の口からは、弾んだ勝利宣言が飛び出す。

「ずるいぞ、トモ!ちゃんとコースはしってないじゃないか!」

 僅差で、隣に着いた京一の口からは、すでにもうそれに対するセリフが飛び出している。
 年長組の二人が三輪車のままにらみ合う後ろには、年中組の酒井と、年少組の大輝が、ようやく到着した。

「なんだとぉ!まけたからって、うそいうなよ、きょーいち!」
「うそじゃないぞ!トモはコースはずれたんだ!」
「うそだ!おれはちゃんときめたコース、はしったんだ。おれがかったからってうそいうな!」
「じゃあ、おれがうそつきだっていうのか!おれはうそつきじゃないぞ!」

 三輪車から降りて、つかみかからんばかりにしている智幸と京一に、酒井と大輝はおろおろするばかり。
 大輝にいたっては、すでにもう涙がにじみかけている。
 今にも、お互いの手が出ようとしたその時。

「ハーイ、二人とも喧嘩しないの。もうおやつの時間だから、仲直りの握手して、手を洗ってらっしゃい」

 美人だけれど、怒らすとこわい涼子先生が、智幸と京一の頭をぐりぐりと撫でて、高らかに宣言した。

「さあ、トモくん、京ちゃん、仲直りの握手は?喧嘩する悪い子にはおやつはなしよ?」

 ここで、あくまでも意地を張っていては、一日の一番楽しみのおやつを食べ逃すことになる。
 それはちょっと、いやかなり、問題なので、二人は不本意ながら、仲直りの握手をした。

「あらあら、大輝ちゃん泣かないのよ。ほら、酒井くんが待ってるから、一緒に手を洗ってらっしゃい」

 涙のにじんだ大輝を抱き上げて、頬をさすると、酒井の方へとんと降ろしたのは、いつも元気いっぱいの啓子先生だ。
 ようやく4人がそろって、手を洗いに行くと、二人の先生は顔を見合わせて、苦笑しあう。

「まったく、毎日毎日、よく飽きないわね、あの子たちは」
「本当に、必ず喧嘩になるくせに、三輪車の競争やめないわね」
「さあ、他の子たちも手を洗わせて、おやつにしましょうか」
「ええ、そのあとのお昼寝の時間までは、また戦争だわね」

 そうして、お腹が膨れて眠って起きると、子供というものは、それまでの感情など忘れてしまうものだ。
 お帰りのバスを待つ間、4人はまた仲良く遊んでいた。

「なーなー、手ぇつなごうぜぇ」
「やだ」
「なんで」
「なんとなく」
 ご機嫌の智幸のそばで、そっぽを向いてる京一。

「手ぇつなご」
「うん!」
 手を繋いでにこにこと笑いあう酒井と大輝。

バスが来るまでのいつもの風景。

☆END☆
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