まず、ニュース英語を攻略するための基本姿勢として、心得ておいておくべきポイントを以下に列挙します。難しすぎない素材を繰り返し聞く / 速すぎるもの、遅すぎるものは聞かない / 興味のある内容のものから聞く / 毎日1時間は聞く / まねして声に出す / ときどき部分的に書き取ってみる / 平行して語彙を増やす。日本で生まれ育った、ごく一般的な英語学習者にとって、リスニングの習得は最も困難と言えます。話すことは自分のペースで進められ、話せないことは言わなくても済まされますが、リスニングは、語彙 (ごい) 力、構文力、音声の聞き分けのみならず、内容においても常に相手のペースで進められます。対話 (dialogue) なら、ある程度相手に話し方を変えてもらったり、繰り返してもらうことができても、テレビ・ラジオ放送、館内放送、講義、講演会、洋画、洋楽の英語は一方的に発せられ、そのレベルに達するように聞き手の方が努力しなければなりません。中でもニュースの英語は、天気予報 (weather report) から証券市場 (stock market) に関するものまで幅広く、ある程度の教養が学習者に求められます。何より聞き取りには、音声面に加えて語彙力と背景知識 (background) が欠かせません。教材に関しては、学習者用に加工され、ゆっくりした速度で吹き込まれた市販のものでなく、「生のニュース (authentic news)」 を選ぶことが大切です。生のニュースは大きく分けて2種類あり、ひとつは、CNN のようなネイティブスピーカーを対象にした通常の英語放送。もうひとつは、一定の時間帯に英語を母語としていない人たちのために放送している、米国の国営放送、VOA (Voice of America) です。後者には、使用語彙を1,500語に制限し、短いセンテンスで、通常の朗読より30パーセント減速した、Special English があり、30分の番組が日替わりで放送されています。発音もクリアなので、初級レベルの学習者には理想的な素材と言えます。尚、VOA を聞くには短波放送を受信できるラジオが必要です。そこで、以下に自分のペースで長期的に学習を進めていくための、具体的な方法を紹介します。
1)データ収集(Getting News and Scripts)
CNNやBBC の番組を、BS放送やケーブルテレビからビデオに収録しましょう。さらに、音声の収録と同時に、インターネットを利用して、英文原稿 (news script) を入手します。CNNの場合、放送された番組のスクリプトが、http://asia.cnn.com/TRANSCRIPT から入手可能で、10日前のものまで番組別に分類されています。また、BBC には Learning English (http://www.bbc.co.uk/worldserice/learningenglish/news/index.shtml) というニュース英語の学習コーナーがあり、音声とスクリプトのほか単語の解説もあります。さらに、アーカイブ (archive) には過去3年分の主なニュースも収められています。VOA の場合は http://www.voanews.com/index.cfm か、スペシャル・イングリッシュなら、http://www.voanews.com/specialenglish/index.cfm にアクセスすれば、ほぼ1日遅れでスクリプトが入手できます。日本向け英語放送の放送の時間帯と周波数、番組については、海外ラジオ放送を紹介したサイトhttp://homepage1.nifty.com/saba7/voa.html で確認できます。パソコン等の機材がない方や、和訳つきの教材としての「生のニュース」で学習したい方は、CDとスクリプトの付いた英語学習雑誌 (月刊『CNN English Express』:朝日出版社)や、拙著『VOA 英語ニュースリスニング初挑戦』、上級者向けの『VOA英語ニュースパワーリスニング』(共にCD付き:語研)を利用する方法もあります。
2)内容理解のための聞き取り (Listening for Comprehension)
リスニングの主たる目的は内容の理解ですから、ニュースの素材を手に入れたら、まずは原稿を見ずに、5W1H の把握につとめましょう。以下のような質問リストをあらかじめ用意してから聞くと、要点をおさえたリスニング練習ができます。尚、1日の学習量は1〜2分程度のニュース1本ぐらいが適当です。
(1) What is the story mainly about?
(2) Who is involved in the incident (accident / plan / project ...)
(3) Where did the incident (accident) happen?
(4) When did it happen?
(5) Why did it happen?
(6) How did it happen?
3)音声認識のための聞き取り (Listening for Perception)
内容把握の後は、原稿を利用した音声の聞き取りを行います。この際、聞き取った英文を書き取るdictationをぜひ試してみて下さい。まず、ニュースの英文原稿を見ないで英文を聞き、適当な長さのところでCD やテープを止め、聞き取った部分を書き取ります。聞き取れないところがあっても何度も聞き、根気よく続けることが大切です。すぐにあきらめずに、最低10回は聞いてから原稿で確認するようにしてください。
4)スクリプトのチェック (Checking the Script)
内容把握と音声認識の学習を終えたら、スクリプトにじっくり目を通すことが必要です。英文の構造と語句を徹底的に調べ、内容の完全な理解を目指してください。またスクリプトは単に英文を確かめるだけではなく、ライティングの学習にも使えます。ジャーナリズムの英語を何度も書き写すことで、簡潔に物事を伝える訓練になり、さらに文法書を読むだけでは身に付かない、冠詞や名詞の単・複数などの学習にも抜群の効果を発揮します。
5)ボキャビル (Vocabulary Building)
スクリプトは、語彙力増強のための貴重な素材としても活用すべきです。新しく学んだ語句をパソコンやノートに書き込んで整理保存するのです。その際、例文とその出典のほか、日本語の意味や発音記号、英英辞典の定義なども書き添えておくことで、自分だけのニュース英語辞典が出来上がります。
6)音読とシャドゥイング (Reading Aloud & Shadowing)
最近音読が見直されています。音読はスピーキングのために行うものと考えられていますが、自分の声を聞くことでリスニングの練習にもなるのです。ただし、間違った発音やイントネーションで読み続けると悪い癖がつくことがあるので、テープやCDなどを何度も聞いて正確な音を認識してから、スクリプトを声を出して読んでみましょう。1〜2分の長さのニュース原稿を1日20〜30分、何度も繰り返し音読してください。時間のある人は、前日のものにも挑戦するといいでしょう。上級者には、Shadowing(シャドゥイング)をお勧めします。これは、ニュースの音声が聞えた直後、ほぼ同時に声を出してあとについていく方法です。同時通訳者の養成に使われている方法で、リスニング力を高め、英文を chunk(かたまり)として記憶に定着させ、さらに発音やイントネーションを正確かつ滑らかにさせる効果があります。
7)過剰学習 (Overlearning)
overlearn とは聞きなれない言葉ですが、習熟後もさらに訓練をし続けるという意味の教用語です。方法としては、今までの勉強で何度も聞いたニュースを自宅で流しっぱなしにしたり、通勤・通学の時にCDプレーヤーで聞き流すのです。これは、一度理解した英文の語彙、構文、英語の発音を無意識に定着させる狙いがあります。ですから、神経を集中させるのでなく、BGMの感覚で聞いてください。特にイントネーションの習得に効果があると言われています。また、ときどき、部分的なシャドゥイングをすることもお勧めします。
これらの7ステップを、できれば毎日実践してほしいところですが、時間に制限のある人は、1週間かけても構いません。ここに紹介した方法をさらに発展させて、自分にピッタリの学習法を確立することが大切です。それには、まず実践してみてから、自分に合うかどうかを判断していただきたいと思います。みなさまの英語学習の成功をお祈りいたします。